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夕焼けゼリー

ずっと黙ったまま歩くあなたの背中は、早足で、いつも置いてかれそうになります。

あなたの足から伸びる影を踏み「止まって」と声にならない声を放つと、ようやく振り向いてくれました。

「夕焼けゼリー作ったんだ」

今まさに、あなたの背後の街は、夕焼けに沈む瞬間で、ぷくぷくと泡立っていました。

「夕焼けゼリー?」

「オレンジとかグレープフルーツとか柑橘系のゼリーだよ」

面倒くさそうに、あなたは答えました。

「どうしたの、急に」

料理なんて、ほとんどしたことがないのに。

ぷいっと顔を背けて、あなたは、また早足で歩き出します。

耳が赤く見えるのは、夕陽を被っているせいでしょうか。

夕陽の露でしっとりと濡れて行くあなたの影を、置いていかれないように、私は、また踏むのです。

すると、再びあなたは立ち止まり、振り向きました。

「結婚記念日、だよ」

そういえば、今日は、結婚してちょうど五年目です。

これまで、結婚記念日なんて祝ったことがなかったから、すっかり忘れていたのでした。

「ごめん、私、何も用意してないや」

怒るでもなく、笑うでもなく、あなたは、ただ無愛想に手を差し伸べます。

私はその手と、固い握手をしました。

あきれたように、あなたは首を振り、少し乱暴に手を引いて、早足で歩き出しました。

手を繋いで歩いたのは、ずいぶんと久しぶりですが、もう少し、ゆっくり歩いてほしいなと、あなたの目を覗き見たのでした。

#小説 #掌編

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