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鱗雲

校舎を出ると、鱗雲が散らばっている。

忘れな草色の透明な空に。

自転車のペダルを踏んで、坂道を登る。

あの鱗雲のひとつが欲しくて。

桜並木の坂道を、立ち漕ぎして登っていく。

地に眠る魂を吸い込み、鮮やかに燃え立つ桜並木。

あの先に、鱗雲が浮かぶ、高い高い空がある。

桜の枝からは、朱色、緋色、赤銅色の葉が降っては僕の背中を押した。

太陽が、街の向こうに沈んでいく。

空の淵が、橙色を吸い込んでいく。

鱗雲がしゅわしゅわと泡立ち、黄金色へと変わり始めた。

世界の向こうから、徐々にやってくる群青の夜。

どろりと街全体を覆いつくした時、ぽっかりと月の穴が空いた。

月から流れる白い光は、群青の夜に飲まれた、鱗雲を浮かび上がらせる。

黄金色でしっとり濡れた鱗雲は、月の光が混じると、七色に輝き甘い香りを放つ。

夜のドームに、ぽつぽつと無数の星の穴が空き、鱗雲は次々と剥がれ落ちた。

僕はそれを両手で受け止め、自転車のカゴに集めることにした。

#小説 #掌編








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