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大昔は海でした

大昔、このあたりは海だったと聞きました。

現在は、樹木の生い茂る森が広がっております。

折り重なる枝の間からは、木漏れ日が滴り落ち、虫や動物達の体を潤しております。

風に揺れ、擦れる葉の音は、潮騒のように、きらめいております。

澄み渡る大空に、樹木たちは枝を伸ばします。

月日と共に少しずつ、空に近づいていくのです。

大人になれば、強くなれるものだと思っていました。

決して、そうではないのだと、無力さを思い知らされ、迷いなく、空に向かっていく樹木を見上げます。

ただただ、空に向かうだけのことなのに、私にとっては、とてつもなく困難なことなのです。

不安や、恐れが、私の足を迷わせます。

正しい道程は、茨の向こうに、ようやく現れるものなのかもしれません。

傷だらけになりながらでも、見つけ出すものかもしれません。

どうか、私に知恵と力と勇気をと、樹木の硬い肌に触れました。

潮騒が空から降ってきます。

太古の記憶が降ってきます。

#小説 #掌編

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