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たぶん、ずっと待ち焦がれていたのだ。

夕陽色の落ち葉で敷き詰めれ、木漏れ日が降り注ぐトンネル。

やわらかくあたたかな落ち葉を、踏みしめながら歩く事を、ずっと。

人通りの少ない、平日の公園を、昼間から歩く優越感をポケットに入れたまま、ゆっくりと歩く。

かさりかさりと足元で掠れあう落ち葉達は、私が確かに、この世に存在すると、代わりに証明してくれている。

わずかひと月足らずだったというのに、長い間休んでしまっていたような気がしていた。

その間、濃い緑だった葉は、鮮やかな赤や黄色に色づいていてた。

世界は、立ち尽くし声を失うほどの、美しさに覆われていた。

こんなに色鮮やかな世界ならば、また、呼吸が出来そうである。

悲しみや不安が、嗚咽のように溢れ出る日々だった。

どんなに分厚い蓋をしても、湧き上がっては、息を塞いでいた。

色づいた香ばしい空気を、思いっきり吸い込んで、吐けばいい。

ほとんど葉の散ってしまった楓の木が、私を見下ろしていた。

枝には、もの言いたげな葉がひとひら風に揺れている。

小さな赤い手が、こちらに手を振っていた。

もう、それだけで、何もかもいいような気がした。

#小説 #掌編


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