しがない乾物です。ごくありふれた日常を吸って膨らんだ思考を綴ります。

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最近の記事

あなたの呟きは3度くらい温度が低い。 雑然としたタイムラインの中、凍えてしまいそうなあなたの吐く息は特段青白く見える。 その温度が目印となって、私はあなたをすぐに見つけることができた。

    • 【散文】手鏡

      あなたは六畳間から奥行きのない世界を覗いている。 あなたの意思によって明滅を繰り返し、時に反転したあなた自身の姿を見せる世界を。 視線の先のガラス面は、霧雨に見舞われたあなたの心をじっとりと写す鏡である。 否、あなたの心こそ世相に弄ばれる写し鏡なのだろう。 多くの不要な情報に急かされながら滑稽な振り付けを踊っている。 あなたは背中に、窓枠の両端へ縮こまったカーテンの視線を感じた。 それは慈愛に満ちた眼差しを向ける。 ある時は陽の光とも呼ばれるものだ。 しかしあなたは日差しを

      • 上手く綴りたい

        今回は趣向を変えて、ただの日記です。 近頃、上手く綴れないのです。 書きたい出来事や感情はあれどどこか普遍的に思えてしまって、私が書く必要はないのかもしれないとそれらを元の場所へ置き戻してしまうのです。 無闇に出涸らしを絞って書いても面白いと思える文章は出来上がりませんから。 こういう状態へは定期的になってしまうと知っているので特段焦ってはいませんが、もどかしい。 本当はこのもどかしさすら言葉にしたいのに、私の中の何かが足を引っ張っているのです。 まとわりついた足枷について

        • 【散文】八百屋のまりちゃん

          ふと、前方できらりと光る何かに目を奪われる。 多くの人が行き交う歩道に面した八百屋の店前、腰をいわせてしまいそうな前傾姿勢で黙々と大根を並べている女性がいた。 彼女の首元にはネックレスが、今も眩しい陽の光を受け止めている。 彼女は深々と黒色のキャップを被っていたが、後頭部で揺れるポニーテールは明るい色をしていた。 まだ初夏とも呼べない季節なのにゆるりとしたTシャツを着、健康的な小麦肌をさらしている。 日頃から野菜の詰まったダンボールを抱えているのだろうか、腕はやや筋肉質であっ

        あなたの呟きは3度くらい温度が低い。 雑然としたタイムラインの中、凍えてしまいそうなあなたの吐く息は特段青白く見える。 その温度が目印となって、私はあなたをすぐに見つけることができた。

          【散文】清掃員

          エントランス付近で女子生徒数人が駄弁っていた。 その横で、清掃業務を仰せつかった私は床へモップを這わせている。 それはそれは丹念に。 ふと、その集団の輪から一歩引いて相槌を打つひとりの女子生徒に目が行った。 彼女はそれらしく笑っているものの目が退屈を訴えており、時折集団から視線を逸らしては手遊びをしていた。 清掃を行いつつもチラチラと集団を気にしていると、不意にその女子生徒と目が合ってしまった。 退屈そうだった彼女はこちらの視線へ格好の餌だとばかりに食い付いてきた。 「なに

          【散文】清掃員

          【散文】ヤマブドウを手に入れるためには

          ヤマブドウは奥山に多く自生する。 急斜面の、さらに雑木に囲まれた場所に生えるので人が分け入ることは困難である。 ヤマブドウと訊いて初めに想像されるものは実だろう。 葡萄と名が付くのだからごく自然な発想だ。 しかし野生において、ヤマブドウの木を見つけだし、その実を手に入れることは非常に困難である。 ヤマブドウは雌雄異株の樹木であり雌木のみが実をつける。 雌木であっても必ず実をつけるとは限らないので、ヤマブドウの木を見つけられたとしても実が生っていないことが殆どだ。 運良く実が生

          【散文】ヤマブドウを手に入れるためには

          【散文】夜襲

          ぐるりと意識が一周し、気付けば布団の上で重力に沈んでいた。 おそろしい怪物がやってきて、力なき者の身体に爪痕を残して去っていったのだ。 柔らかい毛皮の隙間から覗いた怪物の黒い瞳。 光のない左目に見初められて、力なき者は自らの無力を知ったのだ。 彼奴からは逃れられない。 身体に力が入らなくなる。 力なき者の本能がそうさせているのだと、逃げろと、理性が警鐘を鳴らす。 しかし、力なき者は蹂躙されることを望んでいた。 逃れられないように留められた身体はあつくなっている。 あの日

          【散文】夜襲

          【散文】駄菓子ほど色鮮やか

          わたしは目の前の人に、箱入りのキャラメルと鈴カステラの袋と数枚の硬貨を差し出した。 あの人と喋るときはポン菓子の弾けるような声を出すのに、あの人と喋るときは水あめの絡まったじれったい声を出している。 あの人の隣では金平糖みたいなお利口さんでいられるのに、あの人の隣ではチョコレートみたいに表面からとろけだしてしまう。 ウソはつきたくないけれど、ホントの自分がどれかわからない。 多少大人ぶって二面性などと呼んでしまえばいいか。 どれもホントのわたしで、どれもウソのわたしだから。

          【散文】駄菓子ほど色鮮やか

          【思考メモ】羽化

          自分のアイデンティティを証明する物。 例えば足跡。 例えば服。 例えば料理。 例えば作品。 時間と経験の詰まったそれらを自らの手で壊す時、頭が揺さぶられてくらりとくる。 自分の体を構成していた肉が削がれたかのように虚しくて、しかし空洞は得体の知れない生温い気体で満たされている。 風を感じながら屋根の上を歩いている時と同じ、瞬間の全能感に包まれる。 全能感のままに世界を見渡せば、遠くに知らない街、知らない景色が見える。 それらのもつ豊富な栄養に成長を促され、生かされている。 人

          【思考メモ】羽化

          布団が優美な弧を描く。突然のことに天を仰げば、真昼の太陽が眼球をさした。風に揺れるハンガーたちがせわしなく甲高い音を立てている。否、それは耳障りなご近所の主婦たちの声であった。驚きに声を漏らす主婦の群れの中、一人が口に手を当てながら呟いた。「アラまあ、布団が吹っ飛んだわ」

          布団が優美な弧を描く。突然のことに天を仰げば、真昼の太陽が眼球をさした。風に揺れるハンガーたちがせわしなく甲高い音を立てている。否、それは耳障りなご近所の主婦たちの声であった。驚きに声を漏らす主婦の群れの中、一人が口に手を当てながら呟いた。「アラまあ、布団が吹っ飛んだわ」

          【駄文】ぬくもり

          血の通ったあたたかさへ両腕と心を添わせたい。 透明で冷たい無機物では代えられないけれど。 透明で冷たい無機物を拾い上げるみたいに私の懐へ仕舞い込みたい。 ポケットの中で居所悪そうに揺れる拾い上げたそれを左手で撫でてみる。 そうすると、それは私だけのために鈴の音に近い心地よい音を鳴らした。 けれどそれは海から来たもの。 都合の良いように砂浜から取り上げることはできない。 それを海へ還す時はいずれ訪れてしまう。 せめて最後に、君のあたたかい手のひらで優しく撫でて。 どうせ冷

          【駄文】ぬくもり

          アルミ缶の上にあるそれは、爽やかな香りを鼻腔へ届けた。手に取り、橙の小包をひらく。中は沢山の半月が放射状に座り、満ちていた。一つの半月を手でむしり取り、奥歯で薄皮一枚を破けばじくじくと甘酸っぱい汁が溢れてくる。それが過去の苦い記憶を呼び起こすので、私はアルミ缶をあおった。

          アルミ缶の上にあるそれは、爽やかな香りを鼻腔へ届けた。手に取り、橙の小包をひらく。中は沢山の半月が放射状に座り、満ちていた。一つの半月を手でむしり取り、奥歯で薄皮一枚を破けばじくじくと甘酸っぱい汁が溢れてくる。それが過去の苦い記憶を呼び起こすので、私はアルミ缶をあおった。

          久方振りのご挨拶+思考メモ

          お久し振りです。 三日坊主を自称するも3日間続けられなかった麸と申します。 箸にも棒にもかからない言葉でも投稿しようかな、そういえばnoteやってたな、と思い立ち戻って参りました。 とりとめのない思考のメモですが。 消費されていく儚い存在について 人面魚のような 外見と内面の違和 人を惹きつける為の端正な顔立ちに人々は狂わされ、そうして虜になった人々にすべて喰らい尽くされる。 そうやって消費される存在に儚げな美しさを感じる。 水面の泡立ちが如く刹那的な美しさである。 そ

          久方振りのご挨拶+思考メモ

          初投稿のご挨拶

          年の瀬に初投稿失礼します。しがない 麸 (ふ) です。 普段からメモ帳に書き貯めていたアイデアをどうにか昇華できないかと考えていた時、以前より名前だけ聞いたことのあった note の有用性に気付かされ、そして今あなたの目に触れることが叶いました。 本日はひとまず、ご挨拶だけとさせて頂きます。 今後は短い物語や日記なんかを投稿できたらと考えております。 ほんの少しだけガラスが扱えるので、ガラス工芸品の加工過程等もいつかお見せしたいと思います。 三日坊主のきらいがある乾物な

          初投稿のご挨拶