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【散文】駄菓子ほど色鮮やか

わたしは目の前の人に、箱入りのキャラメルと鈴カステラの袋と数枚の硬貨を差し出した。

あの人と喋るときはポン菓子の弾けるような声を出すのに、あの人と喋るときは水あめの絡まったじれったい声を出している。
あの人の隣では金平糖みたいなお利口さんでいられるのに、あの人の隣ではチョコレートみたいに表面からとろけだしてしまう。
ウソはつきたくないけれど、ホントの自分がどれかわからない。
多少大人ぶって二面性などと呼んでしまえばいいか。
どれもホントのわたしで、どれもウソのわたしだから。

目の前の人が何かを呟いていた。
聴き取ることができなかったが、こちらの頭の中で補完できる程度のありきたりな言葉だろう。
箱入りのキャラメルと鈴カステラの袋には、それぞれ小豆色のセロハンテープが貼られていた。
硬貨は目の前の人が飲み込んだようで、返ってこなかった。

わたしは箱と袋をカバンに押し込み、あの人の待つ運動公園へ走りだした。

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