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読書感想|ようこそ、ヒュナム洞書店へ


本書275ページより

こんにちは、天音です。

今回紹介するのはファン・ボルムさんの『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』

この本は、とある書店さんが新入荷本として紹介したツイートをきっかけに知りました。その後に本屋大賞の翻訳小説部門で一位になり、本格的に興味を持ったというのが読もうと思った経緯です。
元々興味があったので、全くあらすじを知らずに読み始めました。
なんなら小説ではなくエッセイだと思っていたくらいです。

一切情報なしの状態で手に取ったので、今回はあまりあらすじを載せずに紹介記事を書いていきます。お付き合いくださると嬉しいです。

わたしは本に関してはかなり気が長い方で、最初あまりのれなくても途中で諦めることなく読み続けます。そのまま読み進めて、「面白くなってきた!」って思うこともあれば、「最後まで相性が良くなかったな……」と思う場合もあります。

だからこそとても驚きました。
この『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』という本に関しては、最初っから本当に面白かったんです。

面白かったというと少し語弊があるかな。
ぐわーっ!とくる勢いのある物語というわけではなくて、そっと読者の心を繋いで離さない。そんな感じ。

一目一目丁寧に編まれたレースのコースターみたいな物語。

一つ一つの文章に、大切にしたいなと思うことばが散らばっていて、編み目をじっくり鑑賞しながら読み進めるような読書体験でした。

それで、その編みものにはちょっと歪なところもあって、編み目がとんでいたり抜かしていたりしているんですけど、そこには“失敗”という言葉で片付けることはできない人間らしさがあるような気持ちになるんです。

抽象的すぎますね。
でも、ほんとにぴったりの表現だと思っています。

一言でこの本のあらすじをいってしまうと、ヨンジュというヒュナム洞書店の店主を中心とした普通の人たちの群像劇です。

わたしはこの本を何も知らない状態で読み始めたので、読みながら登場人物たちを追いかけていきました。読んでいくうちに、彼らの状況や過去がゆっくりと明らかになっていきます。家族だったり、就職だったり。
あらすじを読んでから読んだ方がストーリーの理解は早かったと思いますが、手探りで登場人物たちを理解していく過程が、彼らが迷い悩みながら人生を歩いていく様子とリンクしていて、むしろ濃密に読書を楽しめたのではないかなと思うのです。

 店番をしながら泣き続ける個人書店の店長。
 自分のことを話せないアルバイト。
 〇〇の“オンマ”。
 激務にくたびれた会社員。

物語の登場人物は「わたし(あなた)」になりうる人々です。

そんな彼らが、迷い立ち止まった後にどうにか歩き始めるから、なんとなく自分もどこかへ歩いていける気がする。
じんわりとやさしさを感じる本でした。

わたしもヒュナム洞書店に行ってみたいなあ。
カフェスペースもある本屋さんなんて、絶対何時間も居座っちゃいます。

単行本で約350ページもあってかなり分厚く感じますが、一章が10ページもないくらい細切れなので負担なく読めます。
本を読んでみたいけどという、読書初心者にもおすすめの小説です。

もちろん章の区切りなんてぶっ飛ばしたっていい。
むしろ感想を聞きたいから早く読んでほしい。

お仕事小説にも分類できるので、本屋さんの仕事の話を読んでみたいという方にもおすすめします。

一つ注意点は、登場人物の情報はまとまって出てこないところです。ちょこちょこメモしながら読んだ方が安心して読めると思います。わたしは韓国の名前にも不慣れだったので、覚えるまでは出てきた人をメモしました。

町の本屋さんを舞台にした、どこにでもいる普通の人たちの生活。

初めての人生だから、あんなにも悩んで当然だったのだ。初めての人生だから、あんなにも不安で当然だったのだ。初めての人生だから、あんなにも大切に思えて当然だったのだ。

本書316ページ

不安はいつだってあります。
どこに行ってもあるでしょう。
生きている限りつきまとうはずです。

それでもわたしの初めての人生を、わたしが大切にしよう。

みんなどこかで立ち止まったことがあるし、立ち止まりたいと考えていると思います。もしそんなことを考えたことがない人でも、そういう人がいると考える余白はムダにはならないわけで。

人間って、自分だけが苦しいんじゃないって気づくだけでも、がんばれるの。

本書189ページ

きっとまた何度も読み返すんだろうなと思える本でした。



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