見出し画像

【読書感想】落ち葉を見比べるような読書体験

こんにちは、天音です。

今回の読書感想は、江國香織さんの『つめたいよるに』(新潮文庫)です。

最近は積極的に初めての作家さんの作品に挑戦しています。
江國さんもその一人で、今までの読書傾向とはかなりかけ離れている作家さんでした。

『つめたいよるに』は、江國さんのデビュー作の「桃子」を含む21編を収録した短編集。
どれも6ページ前後のとても短いお話で、さらりと読むことができました。

そして、感想ですね。
なんていうか、面白い!っていう本ではありませんでした。……語弊があります。決してつまらないんではないんですよ。
二つくらい読んでいく途中で、もしかして苦手な作家さんかもと思ったんですが、読み進める手は止まることなく、最終的に、あれ今の話が最後!?と驚くくらいラストを惜しみながら読み終わりました。

巻末の解説には、芝居に例えて「江國さんの作品は“拍手がなり続けるのではなくあっさりと終わるタイプ”」との評が。
それを読んで腑に落ちました。
そうです。
つまらないのではなく、ドラマチックではないだけだなと。

面白くなければ、本が終わりそうなことに気づかず読み続ける、なんてことありませんからね。

全21編収録。
なんだか多そうですが、読んでみるとそうでもなかったです。
むしろ物足りないくらい!

すごく抽象的に例えると、「秋にたくさん落ち葉が溢れている風景」みたいな感じの本でした。
…………伝わるかな。

一見代わり映えしないものを、一つ一つ丁寧に別物として描写しているようなお話たち。個人を書いているのに、誰にでも当てはまる。
似ているように見えて違っている色んな見た目の落ち葉を、じっくり鑑賞しているような読書体験でした。

リズム良く、21編の主人公21人にくるくると変わっていく感覚。
お話の中で、登場人物が別人や別物、別の年齢に変わるというシーンがありましたが、読者も読みながらそれを経験していると感じました。

今私はなんなんだろうと思っていたら、猫になっていたりして!

いろんな性別や年齢の人に違和感なく成り代われて楽しかったです。

この本を読む前にいくつか読了ツイートを目にしていて気になっていたのは、1番最初の話でもある「デューク」です。
愛犬を亡くした女性の話なのですが、読んだ直後少し呆然としてしまいました。
実は去年の秋口、私も愛犬を亡くしているんです。15年ほど一緒にいて、死因も老衰だったのでさよならの覚悟はできていたんですが。
いなくなって5ヶ月経ちます。
今でもやっぱり寂しいと思うことがふとした瞬間にあります。
この話は私の急所に当たりました。

読んでいる最中に、もう少しで終わるという意識なく読んだ本は久々でした。出会えてよかったと思います。
それととても読みやすかったです。短編集というのもありますね。
ものすごく自然な文体で、穏やかな本でした。


この記事が参加している募集

最後まで見てくださってありがとうございます。 サポートいただけたら嬉しいです。執筆活動に使わせていただいています。しっかりお返しできるよう、精一杯頑張ります!