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【感想文】村上春樹「街とその不確かな壁」ネタバレあり

読後感として、とても気持ちが悪くなった。
主人公が、得体の知れない世界に戸惑い続ける事と同じように、読者の自分も同じく得体の知れない世界に戸惑い続ける。
それが数百ページにも渡り続ける。
それにより、戸惑い続ける限り、自分が主人公と一体化したかのような読書体験をする。

そしてラスト、得体の知れない物が、主人公へと侵入し、そして離れていく。
主人公に感情移入していた読者の自分にも、同じような体感がなされる。
その身体感覚が、とても気持ち悪かった。

「なんなんだ」
その状態のまま、自分の中身、それは自分の秘密もある場所、そこに入り込まれ、抜けていく。

これが対話だけならまだ良い。一緒に洋服を見たり、登山する、等も、多少気持ち悪いがまだ良い。

しかし、そんな得体の知れない存在に、中に入り込まれ、そして、自分にとって得体が知れないけれども大切だった場所に住まわれるようになる。その行動も、自分を掴まれた感触を受ける。

不確かな壁とは、自分と他者の境界線、自分と自分の境界線の事を指しているのか?
その壁は、通常は「不確か」では無い。
他者との壁はあり続ける、または、セックスや共感により無くなるものだが、得体の知れない存在ゆえに、その境界線は「不確かな」物となる。

最後、主人公の自分は、旅立ちにも進む。
しかし、その旅立ちに、自分の意志、自分のコントロールは何も起きていない。
その状態にも、気持ち悪さを覚えた。

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