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小説(3~4分)

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小説
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#短編小説

3分30秒小説『ミティーング』

3分30秒小説『ミティーング』

「ではこれで商品企画チームのミーティングを終了したいと思います。最後にオブザーバーとして参加して頂きました川辺部長、一言お願いします」
「あー、山村さん、司会進行お疲れさまでした。ミーティングを拝見して、まずはこのチームの結束力と絆の強さを凄く感じました。本当にいいチームだなと思いました。ただ一点だけ気になったのが、ミーティングの時間配分です。冒頭で企画の狙いについてチームリーダーの田崎君が語って

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3分40秒小説『柏木さんそれは中古です』

3分40秒小説『柏木さんそれは中古です』

 待ちに待った新作、推しのグラビアDVD、グループを卒業して初めてリリースしたイメージビデオだ。アパートの階段を駆け上がり、紙袋から取り出しパッケージを眺める。白いワンピースを着て浜辺で燥いでる笑顔――可愛い!嗚呼、早く見たい!逸る気持ちを押さえ丁寧にビニールを破る。ケースを開ける。
 DVDが2枚、1枚は特典映像、これは後で見よう。まずはメインの方を――ん?固い。取り出せない。くそっ!悪戦苦闘す

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3分小説『ル』

3分小説『ル』

「くじ引きは今日の17時で受付終了です」
「いや、そこをなんとか」
「すいませんね。ルールだから」
「そんなこと言わないで、たったの10分じゃないですか。お願いしますよ」
「いやだから、ルールなんで」
「こんなに集めたんですよ!日用品から何から、わざわざこの商店街まで出向いて買い物したんです。このくじ引きの為に」
「それは有り難いですけどね。ルールを曲げるわけにはいかないので」
「分かりました。じ

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3分30秒SFBL小説『科学者とピアニスト』

3分30秒SFBL小説『科学者とピアニスト』

「――というわけで、僕は僕を殺したんだ」
「朝食に何を食べたか告げるような口ぶりだな」
「マフィンだよ。あとたっぷりのスクランブルエッグ」
「ふざけるなよ」
 科学者は眼鏡を外し、眉間を強く摘まんで「ピアニストという人種は、決して人を殺さないものだと思っていた」ため息を吐く。ピアニストは口角を上げ「言ったはずだ。1mmでも僕より劣っていたら処分するって」
「自分で自分を殺すなんてどうかしている。ど

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3分40秒小説『2エスカルロパターヌでもなんとかなった話』

3分40秒小説『2エスカルロパターヌでもなんとかなった話』

「他の隊員は?」
「心配するな。全員無事に退避した」
「いいのか?お前は行かなくて」
「嗚呼、サポートが1人は必要だろ」
「一人で何とかする。お前も一緒に――」
「馬鹿野郎!そんなこと言ってる時間はない!今はこの爆弾の起爆装置を解除することに集中しろ!」
「……分かったよ」
「相棒」
「なんだ?」
「今のうちに、お前に知っておいてほしいことがある」
「そうか、大体予想は付く。明美のことだろ?いいん

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3分0秒小説『天使と悪魔とカッターナイフ』

3分0秒小説『天使と悪魔とカッターナイフ』

   手首を切り開こう
   そこに種を植えるために

 4階から屋上へ上る階段、扉は閉鎖されている。だからここを登っても行き止まりだ。生き止まりの私には丁度いい。どうして教師は青空を封印するのだろうか?黄緑色の扉を背負い、座る。売店で買ったカッターナイフのパッケージを破壊する。

「白い傷と黒い傷、どちらがいい?」
 左肩に止まる白い天使が聞いてきた。
「黒い傷がいいよな?な?」
 右肩の黒い悪

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3分40秒小説『瞼の無いテディベアか?』

3分40秒小説『瞼の無いテディベアか?』

 20年くらい生きてきたと思うが、よく分からない。リクライニングを倒すと、ヘッドレストと一緒に床に落ちてゆく頭部、静物のように首の上に据えてネカフェ、窓は無いが、そろそろ夜が明ける。日の出が絶望となる人種が常に一定数居る。今のぼくがそうだ。財布を落としたわけじゃない。ただお金が入っていないだけ。油でつやつやしたプラスチックの容器、パスタの残像。入口に向かう。誰に咎められることもなく外に出た。朝が拳

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3分40秒小説『鬼才』

3分40秒小説『鬼才』

「今のセリフもう一度っ!」
「先生、実は僕……柴犬なんです。体はタカシ君だけど、心はタカシ君が飼っていた柴犬のゴローなんです」
「よしっ!じゃあ次、タカシの告白を受けての先生のセリフ、ハイッ!」

「……そうか、どうりでおかしいと思ったよ。何時からだ?8月ごろ?じゃあニ学期が始まった時にはもう既に心は柴犬だったんだな」
「はい、だから人間の心の機微が今一理解できないんです。先生の頭が剥げているのを

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3分40秒小説『たんぱん(仮称)』

3分40秒小説『たんぱん(仮称)』

「えー、本日は前回に続き、企画、開発に約二年半を掛け、この度満を持して発売する運びとなった高たんぱく質のパンの商品名について、皆様方のご意見をお伺いしたいと思います。商品の特徴については前回ご説明しているので省かせて頂きます。前回参加されて無い方は、お手元の資料でご確認下さい。では次に前回の会議で決まった方向性について企画課の森本からご説明致します。森本」

「はい。前回の会議で、たんぱく質が高い

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3分40秒小説『機種変』

3分40秒小説『機種変』

「機種変更したいんですけど、カタログとか見せてもらえませんか?」
「有難うございます。しばらくお待ちください」

 ショップのお姉さんが、カタログを持ってきた。
「差し支えなければ、おすすめの機種をご紹介させて頂いても宜しいでしょうか?」
「じゃあ、お願いします」
「まずは、こちらですが、F15-E、通称イーグルストライクです。マクドネル・ダグラス社の開発した戦闘爆撃機ですね。第4.5世代ジェット

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3分50秒小説『遺伝子魚洲』

3分50秒小説『遺伝子魚洲』

 円形水槽の外縁には、強化ガラスで仕切られた四つのスペースがある。それぞれに巨大な魚影。雷鳴、屋外水槽の水面に激しい矢雨が無量に刺さる。

「俺の創りだした魚が勝ち残るだろう」
 と、色付き眼鏡の生物学者。
「あんさんの?あのでっかい鰯みたいな魚が?笑わせまんなぁ」
 泣きぼくろの生物学者が言った。
「ふふっ、あたいの魚が一番だよ」
 紅一点、どぎつい口紅の生物学者。
「ぼ、僕の魚が、最も優れてい

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3分20秒小説『説得』

3分20秒小説『説得』

「俺はウンコしか描かん」
「それは分かっている」
「じゃあ帰れ」
「頼む、俺の話を聞いてくれ!」
「散々聞いた。もう十分だ。なんと言われようと俺は変わらん」
「何故だ?どうしてお前、こんなことになっちまったんだ?美術学校に在学中のお前は違った。”佐伯祐三の再来”と称された天才画家であるお前が、どうしてそんな画材ばかりを描くようになっちまったんだ!」
「画材なんてい方はよせ!ちゃんとウンコと言え!俺

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