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小説(3~4分)

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小説
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3分30秒小説『ミティーング』

3分30秒小説『ミティーング』

「ではこれで商品企画チームのミーティングを終了したいと思います。最後にオブザーバーとして参加して頂きました川辺部長、一言お願いします」
「あー、山村さん、司会進行お疲れさまでした。ミーティングを拝見して、まずはこのチームの結束力と絆の強さを凄く感じました。本当にいいチームだなと思いました。ただ一点だけ気になったのが、ミーティングの時間配分です。冒頭で企画の狙いについてチームリーダーの田崎君が語って

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3分40秒小説『柏木さんそれは中古です』

3分40秒小説『柏木さんそれは中古です』

 待ちに待った新作、推しのグラビアDVD、グループを卒業して初めてリリースしたイメージビデオだ。アパートの階段を駆け上がり、紙袋から取り出しパッケージを眺める。白いワンピースを着て浜辺で燥いでる笑顔――可愛い!嗚呼、早く見たい!逸る気持ちを押さえ丁寧にビニールを破る。ケースを開ける。
 DVDが2枚、1枚は特典映像、これは後で見よう。まずはメインの方を――ん?固い。取り出せない。くそっ!悪戦苦闘す

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3分10秒小説『メメント盛り』

3分10秒小説『メメント盛り』

 
 絶賛ダイエット中の私、ランニング後に蕎麦をすするが何よりの楽しみ。それだけを頼りにダイエットに励んでいる。
 蕎麦、コンビニのなんかでは済まさない。ちゃんと蕎麦屋で食う。立ち食い屋ではない。暖簾に出汁の色が移っているような老舗の蕎麦屋。

 何を頼むか……悩んだふりして壁の品書きを見る。が、決まっている。ザルの小盛だ。天ぷらなんて言語道断。でも見て検討はする。その習性は簡単には消えない。
 

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3分10秒小説『ごだいご』

3分10秒小説『ごだいご』

 猿、豚、河童をお供に連れて、三蔵法師は西へ西へ。
「すいません、ギャランドゥにはどう行けばいいのでしょうか?」
「ギャランドゥに行くには、この道で合っているのでしょうか?」
 会う人会う人に道を尋ねながら、有り難い教典を求めての旅、幾星霜。

 その夜。

「三蔵……三蔵法師や」
 三蔵法師の夢に、お釈迦様が現れた。
「お釈迦様!」
「三蔵法師……あなたが向かっている先は、目的地は一体どこですか

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3分0秒小説『無能の証明』

3分0秒小説『無能の証明』

 天国の入り口で天使が問いかける。

「では次、お前は生前何をしていた?職業は?」
「はい、私はソプラノ歌手でした」
「証明できるか?」
「はい、ではここで歌いましょう」
 男は胸の前で手を組み、見事なソプラノでカンツォーネを歌った。
「うむ、確かに歌手のようだな、通れ。次、お前は生前何をやっていた?」
「はい、私はボクサーでした」
「証明してみろ」
 男は軽妙なフットワークで小刻みに揺れながら、

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3分40秒小説『ソーシャル竹輪』

3分40秒小説『ソーシャル竹輪』

 人前では常に竹輪を額に結び付けておくことがルールとされてから早三年が経とうとしている。ルールである。法律では無い。でもこのルールってやつは、時に法律よりも強制力がある。特にこの国では。

 かちゃかちゃタイピングの音、事務所で新人の女の子がキーボードに指をぶつけている。彼女の額にはピンク色の竹輪、竹輪を締めるためのいわゆる竹輪紐も竹輪に合わせてピンク色だ。最近の子おしゃれだな。竹輪の角度もちょっ

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3分10秒小説『あだな』

3分10秒小説『あだな』

「待って!セーシ」
「え?なんでここに?」
「酷いじゃない黙って行くなんて」
「……」
「行かないで」
「もう決めたんだ。俺は自分の夢を追う。東京に行って、自分の夢を叶えてみせる。だから、黙って見送ってくれ」
「酷いよそんな……自分勝手だよ。私は?私のことはどうでもいいの?」
「……」
「何とか言ってよ!」
「本当に済まないと思っている。でも嫌なんだもう、この町にいるのは!」
「なんで?」
「分か

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3分50秒小説『格の格』

3分50秒小説『格の格』

 助三郎へ

 俺は今、惑うておる。
 武士としての矜持、臣としてあるべき姿、当然として五体に染みわたっておると、そう自負して今日まで生きてきた。それが揺らいだ。
 事の次第を順を追って書き記したい。退屈であろうが、記憶を辿り、再度自らの性根に問い質すべく行うものである。しばし付き合ってくれ。

 例によって発端は八兵衛だ。ご老公が御不浄へ向かわれる折、お預かりした印籠を代官の手先である乱波に掏

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3分20秒小説『たましいのしょくざい』

3分20秒小説『たましいのしょくざい』

「さあ、どんな食材になりたいか言ってみろ」
「食材じゃないとダメなんですか?」
「そうだ!」
 …………
「間違ってたらごめんなさい。死神的な方ですよね?」
「そうだ」
「死神のセリフって、もっとこう『地獄行きだ!』とかそんなんじゃないんですか?」
「そうだお前は地獄行きだ。だがその前に罰を受けてもらう。生前、手当たり次第に食べ物を食い散らかしてきた罰として、お前は食材になるのだ」
「言ってる意味

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3分20秒小説『鬼のすね毛とアーサー王伝説』

3分20秒小説『鬼のすね毛とアーサー王伝説』

 鼻毛を抜こうと思う。ただの鼻毛じゃない。剛毛と言ってよい、いや、剛毛どころじゃない。鬼のような鼻毛だ。鬼のそうだなぁ、すね毛辺りがちょうどこんな感じ?うん、鬼のすね毛だな。いや待て、鬼のすね毛どころじゃない。もはやゲームやマンガ並みの現実離れした戦闘力の鼻毛、例えるなら「ドラゴンボールに出てきそうな鼻毛」だ。スカウターがボンってなるような鼻毛、そいつを引っこ抜こうと思う。
 
 車のルームミラー

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3分10秒小説『ネバーエンディングストーリー』

3分10秒小説『ネバーエンディングストーリー』

 むかーしむかし或る処に……
 いや、昔と言ってもそれ程昔ではありません。いや、だからといってそりゃあ2ヶ月前とか3ヶ月前とか、そんな最近では当然ありません。だって日常会話で、「昔さー」って会話するとき、2カ月前のこと言う?言わないよね普通。じゃあ昔ってどれ位前のことかっていうと、石器時代とかじゃないです。

 え?石器時代だと思ってたんですか?聞いたことあります?石器時代の昔話。マンモスとか出て

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3分小説『ル』

3分小説『ル』

「くじ引きは今日の17時で受付終了です」
「いや、そこをなんとか」
「すいませんね。ルールだから」
「そんなこと言わないで、たったの10分じゃないですか。お願いしますよ」
「いやだから、ルールなんで」
「こんなに集めたんですよ!日用品から何から、わざわざこの商店街まで出向いて買い物したんです。このくじ引きの為に」
「それは有り難いですけどね。ルールを曲げるわけにはいかないので」
「分かりました。じ

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3分30秒SFBL小説『科学者とピアニスト』

3分30秒SFBL小説『科学者とピアニスト』

「――というわけで、僕は僕を殺したんだ」
「朝食に何を食べたか告げるような口ぶりだな」
「マフィンだよ。あとたっぷりのスクランブルエッグ」
「ふざけるなよ」
 科学者は眼鏡を外し、眉間を強く摘まんで「ピアニストという人種は、決して人を殺さないものだと思っていた」ため息を吐く。ピアニストは口角を上げ「言ったはずだ。1mmでも僕より劣っていたら処分するって」
「自分で自分を殺すなんてどうかしている。ど

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3分30秒小説『営業の田沼が取引先の井上さんにキレた話』

3分30秒小説『営業の田沼が取引先の井上さんにキレた話』

「井上さん、拳法習ってたそうですね」
「ええ。中国に留学していた時に」
「いや僕格闘技大好きなんですよねー。井上さんが習ってた拳法って何て名前ですか?」
「中林寺拳法です」
「え?中林寺?少林寺じゃなくて?」
「はい。少林寺でも大林寺でもありません。あ、大林寺はご存じですよね?」
「いえ、知りません」
「『鉄拳チンミ』に出てくる」
「あ、漫画の?」
「まぁ、実在するんですけどね」
「そうなんですか

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