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3分40秒小説『2エスカルロパターヌでもなんとかなった話』

「他の隊員は?」
「心配するな。全員無事に退避した」
「いいのか?お前は行かなくて」
「嗚呼、サポートが1人は必要だろ」
「一人で何とかする。お前も一緒に――」
「馬鹿野郎!そんなこと言ってる時間はない!今はこの爆弾の起爆装置を解除することに集中しろ!」
「……分かったよ」
「相棒」
「なんだ?」
「今のうちに、お前に知っておいてほしいことがある」
「そうか、大体予想は付く。明美のことだろ?いいんだ」
「違う、そんなことじゃない」
「じゃあ何だ、言ってみろ」
「……俺、実はモンゴル人なんだ」
「え?」
「これで思い残すことはない。さぁ、集中しろ」
「モンゴル人?」
「集中しろ!何万もの人間の命が掛かっているんだぞ!」
「分かった。集中するよ……駄目だ。え?お前、モンゴル人?」
「ああ、そうだ」
「山田一郎なのに?」
「ああ」
「本当の名前は?」
「ドルジゴワ・ハーン15世だ」
「え?ドルジ――」
「ゴワ・ハーン15世、名前から察しがつくとは思うが、チンギス。ハーンの末裔だ。これで十分だろ。さぁ、集中するんだ!」
「できねぇよ!情報が増えるたびに集中力が保てなくなる」
「ふざけてる場合か!もう時間が無いぞ」
「分かってるよ!集中するから……くそっ、ロックされている」
「代われ!……なるほど、仕方が無い。俺の鞄に入っている通信機を出してくれ。母星のエージェントにサポートを依頼する」
「分かった。これだな。え?母星?」
「実はチンギス・ハーンは外宇宙からやってきた異星人なんだ。だから俺も……いや、そんなことはどうでもいい。『あー、あー、聴こえますか?ドルジゴワです。アンドロメタロンパワーを3この座標に送ってください。え?2しか送れない。いい、それで十分だ』……やったぞ。2でもなんとかなった。さぁ、ここから先はお前にしかできない作業だ。頼む」
「いや、待ってくれ!お前、え?宇宙人なの?アンドロメタロンパワーってなんだよ?3とか2とか、単位は何だ?」
「その話は後だ。今は集中しろ!」
「だからできねぇって!せめて単位だけでも教えてくれ!」
「エスカルロパターヌだ。ほんとは3エスカルロパターヌ欲しかったんだが、2エスカルロパターヌでもなんとかロックを解除することができた。さぁ、これでいいだろ?集中しろ!」
「エスカルゴ?え?エスカルゴパターン?」
「違う!エスカルロパターヌだ!頼む!集中してくれ!」
「集中……え?俺、今何やってんだっけ?」
「起爆装置の解除だ!しっかりしろ!」
「ゲシュタルトが崩壊しかかっている。俺は本当にこの世界に存在しているのか?これは夢なのか?」
「夢じゃない!現実だ。それよりゲシュタルトってなんだ?」
「知覚や認知を説明する哲学用語だよ」
「どこの国の言葉だ」
「ドイツ……っておい!お前集中してないだろ!ちゃんと集中して俺に『集中しろ』って注意してくれよ!」
「ああ、済まない。ドイツ……」
「モンゴル……宇宙」
「ゲシュタルト?」
「エスカルゴ?」
「駄目だ。もう時間がない!伏せろ!」
「止めろ山本、じゃないドルジゴワ!」


「……無事か?」
「山本……夢か?俺は夢を見ていたのか?」
「しっかりしろ!夢なんかじゃない。現実だ」
「じゃあどうして俺たちは無事なんだ?爆弾が起爆したというのに……」
「俺が爆弾に覆いかぶさって、爆発の威力を弱めた」
「え?お前……その体」
「ああ、殆どが機械なんだ」
「山本一郎……いや、ドジルゴワ・ハーン15世……宇宙人の末裔で、その体の殆どが機械で出来ている」
「そうだ。皆には黙っていてくれ。その代わり俺も、お前が実は埼玉出身だってこと、皆には黙っておくから」
「……釣りあわねぇよ」

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