【ショートストーリー】屋根の上の指定席
2階にいた彼女が窓を開けて私を呼んだから,
屋根の上でひなたぼっこをしていたけれど,
塀を渡って窓の下まで行った。
1階でゲームをしていた彼も私を見ていた。
次の日,雪が降って寒かった。
朝,ふたりの部屋のドアが開いていたから,
そっと入り込んで,
ベッドから出ていた彼の足にじゃれついたら,
ふたりとも起きたので私はベッドの下に隠れた。
彼女がのぞき込んで「出ておいで」と言ったけれど
知らん顔していたら,
ふたりとも下に降りて行った。
いい匂いがしてきたから,
私も忍び足で階段を下りて行った。
キッチンに上がってジャムをなめていたら,
彼が来て私の朝食を缶から出してくれた。
「デブネコ,ミシカ!」
なんて私の悪口を言いながら。
食べようとした時,
彼が私の顔に自分の顔をすり寄せてきた。
私は結構これがキライじゃない。
でも彼女がやろうとした時はするりと逃げた。
今回は初対面だから,一応ね。
でも彼女も時々ミルクをくれるので,
今度ロンドンに来たら
もっと仲よくしようなんて思ってる。
翌年,また彼が帰って来た。
今度こそ顔をすり寄せて
挨拶しようと思っていたのに,
彼女は一緒じゃなかった。
代わりに違う女の子が来た。
おそろいの指輪をして。
2階から私を呼んだ彼女は,
もうここに来ないんだってわかった。
まわりのみんなは,
去年来た彼女のことなんて知らないって顔して,
表向きはにこにこしてるけれど,
本当はあの子のことを聞きたくてしょうがない。
私はそんなみんなを見てる。
屋根の上の指定席でひなたぼっこをしながら。
©2023 alice hanasaki
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