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【ショートストーリー】一番大切なものを抱えて生きている(再掲)

※以前一度投稿したことがある作品ですが、
修正して投稿し直しました。

一番好きな人には怖くて心を打ち明けられず、
二番目に好きな人とつき合った。
本当は陶芸家になりたかったけれど、
それは趣味でいいからと自分に言い聞かせて、
楽な道を選び、花屋でアルバイトをして
生計を立てていた。
それで満足できるような自分ではないと
わかるまで、二年と四ヵ月かかった。

花屋を辞めた後、小淵沢の萌黄窯に弟子入りして、
来る日も来る日も土を焼いた。
お客さんが自分の焼いた茶碗や小皿を
喜んで買っていくのを見るのは、
やはり嬉しいものだった。
小淵沢に来てから
だんだん恋人からのメッセージは途切れ、
私はだんだん先生のことが好きになり、
二年目になる頃にはいい仲になった。
私はとうとう本物の夢も、愛も、手に入れた。

二年目も過ぎて、三年目になると、
自分がデザインした作品を
つくらせてもらえるようになり、
私は芸術家のたまご気どりで張り切った。
だけど自分の作品の売れ行きが悪いと、
売り上げが気になって
アイディアが浮かばない日が続いた。

私は先生のことをどんどん好きになり、
先生と幸せな日々さえ送れれば、
もう何もいらないとも思った。
だけど先生は「そんなことを言う君には
魅力を感じない。最初の頃の、
希望に燃えている君が好きだった」と言った。

私は先生の赤ちゃんが欲しいと思うようになった。
先生に愛されたいのに、変わってしまった私は
もう愛されないのだろうか。
「いつか別れるんだから」と思いながら
つき合っていた頃の気楽さが、
少し懐かしくなった。

こんな毎日からは、
もうアイディアも何も浮かばない。
それでも陶芸家への夢を捨て切ることも、
先生への愛を諦めることも、私にはできなかった。

一番やりたいことも、一番好きな人も、
両方手に入れてからは、
それらを失くす日を恐れてびくびくしているだけ。
気が休まる時なんていっときもない。
これが本当に、私が欲しかった生活なのだろうか。

「一番大切なものを抱えて生きている」
そのプレッシャーに
押しつぶされそうになりながら、
私は現実逃避のように、
夢見て生きていた頃に想いを馳せる。
だが同時に、二番目の幸せでは
満足できない自分を思い出し、私は行き場を失う。

©2023 alice hanasaki

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