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【ショートストーリー】ほほ笑んだ母の花嫁姿に恋をした12の夏

男はみんなマザコンだなんて誰が言ったんだ,
そんな無責任なこと。
結婚相手には母に似た人を探し求めるものだって。
僕は絶対に違う。
ママみたいな女の子なんて,口うるさくて,
泣き虫で,そのくせすぐに怒るし,絶対に嫌だ!
僕はもっとおとなしくて,
優しい女の子と結婚するんだ!

小学校最後の夏休み,
僕は弟と押し入れにもぐり込んで遊んでいた。
なぜそんなことをし始めたのかは忘れた。
確かかくれんぼをしていたら,
いつの間にか探検ごっこになり,
しまいには押し入れの物を次から次へと
ひっくり返していたような,そんな気がする。

いつの間にか弟は眠ってしまった。
押し入れの奥にあった何かの包みを枕にして。
僕はといえば,奥の方に埃を被っていた
古いアルバムの山に興味を持った。
一番上は表紙にかわいらしい赤ちゃんの刺繍が
施してある,黒ずんだアルバム。
誰の写真が入っているのだろう?
僕はドキドキしながら表紙をめくった。

ママに似たおばさん。でもママではない。
おばあちゃんだ! 若い! 
女の子の手を引いているけれど…これはママだ!
初めてみる母の小さい頃の写真。何枚もあった。
おじいちゃんらしき男の人の膝に乗っかって,
大泣きしている顔がおかしくて,
思わず一人でふふっと笑いがもれた。

弟は相変わらずすやすやと
寝息を立てて眠っている。
僕は2冊目のアルバムを手に取り,中を開いた。
セーラー服姿の母。
もうこれは顔を見ればすぐにわかる。
3冊目。どんどんページをめくっていくと,
母はだんだん綺麗になった。
そしてとうとう父と出会った。
結婚式の写真。
母はやわらかい感じの小さい花のブーケを持って,
ほほ笑んでいた。父のとなりで。
そのほほ笑んだ母の花嫁姿の写真に,
僕は不本意ながら恋をした。
12の夏のことだった。

だからといって僕は
マザコンを認めたわけじゃない。
僕は今だって,ママのような奥さんはごめんだ。
だって僕が今まで好きになった女の子は,
誰もママになんか似てはいないし。

でも今好きなとなりの席の女子は,
たまに僕を叱るような口調が,
時々ママとダブるような気も…する…。
いやでもこれはただの偶然で,
ちょっと気が強い女の子だってだけさ。
気のせいだよ,それ以外のなにものでもない…!

©2023 alice hanasaki

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