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【ショートストーリー】突然89歳

前編のお話はコチラ👇

僕は目を覚ました翌日に誕生日を迎え、
また一つ歳を取り、89歳になった。
89-22=67。67年の飛び級だ。
「ぐだぐだ言ってないで、
 熟年紳士の覚悟を決めろ」
あ、はい…。熟年紳士…。
 
ところで心臓が新しくなったからといって、
なぜ脳まで活性化されて、
話せるようになったんだろう?
「そんなことは知らんわい」
…ですよね。
でも話せないままの方が
よかったのではないだろうか。
この状態で話せるようになると、
二重人格だと思われる危険性が…。
「話す時はわしがしゃべるから、
おまえさんは引っ込んどれ」
えー、そんなぁ。
僕が来たから話せるようになったのに!
「子どもみたいなことを言うでない。
 この身体の第一人格はわしじゃ」
 
「おじいさん、今日は退院ですよ」
けんかになりそうだったその時、
おばあさんが病室に入ってきた。
「あ…あぁ、そうじゃったな」
「こんなによくなるなんて、
 思ってもみませんでしたよ。
 心臓をくださった方に感謝ですね」
…エヘン。僕は得意気におじいさんを見た。
「何がおじいさんだ、
 今は自分がおじいさんじゃろ」
見た目はそうだけど、心は22歳の青年だ。
「23になったじゃろ」
いえ、僕の誕生日はまだ…、
あ、きたか…。今日は何日だ?
「9月20日じゃ」
じゃあ、過ぎたわ…23歳です。
「ほらな」
 
「おじいさん、何をブツブツ言ってるんですか」
おばあさんが怪訝な顔でこちらを見た。
「おっと、声が漏れていたようじゃ」
危ないっすねー。僕は笑った。
見た目が自分でないので、
この身体に入ってもどこか他人事な気がするのだ。
 
「ところでおまえさん、なんて名前だ」
え、僕ですか…。えーっと…。
「なんじゃ、忘れたのか。アルツハイマーか?」
ち、違います。事故の時頭を打って…
ちょっと出てこないだけで…。
あ、思い出した。芹沢友介です。
「なんじゃとーーーーー!」
 
「なんですか、おじいさん。
 びっくりさせないでくださいよ」
おばあさんが悲鳴に近い声を上げた。
「あ、すまんすまん」
何をそんなにびっくりしてるンすか。
「それは…わしの名じゃ。
 ほら、ベッドの上の名札にも書いてある」
えっ…? 本当だ…。
「どうも、なんか似てると思っとった」
え、じゃあ、おじいさんは…67年後の自分…?
「なんじゃ、嫌か」
いや、嫌だけど…あ、いや、そういうことじゃ…。
「何をそんなに慌てておる」
いえ、ちょっと急なことでショックを…。
「おまえさん、誕生日はいつじゃ」
えっと、9月18日…。
「やっぱりそうなのか。
おまえさんは若い時のわしじゃ」

僕たちは同一人物だった。
ただ、なんで同じ人物が時を超えて
同時に違う年齢で存在していたのか…?
「そんなことは知らんわい」
おかしいじゃないですか。
「そういうこともあるじゃろ」
いや、ないですよ。
あ、でもそういうことなら、
この身体の第一人格は二人になりましたね。
「うっ…まあ、そうなるか…」
じゃあ、これからは交代制でいきましょうかね。
 
こうして僕たちは同じ人物が統合されて
新しい人生を生き始めた。
だがそのうち僕の意識も、
この老人に吸収されてしまうのかもしれない。
「わしの勝ちじゃな…」
人生は勝ち負けではない(笑)。

©2023 alice hanasaki

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