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【ショートストーリー】夢を叶えた後

子どもの頃,初めて飛行機に乗った時,
「こんなはずはない」
と思った。
あまりに雲が近く見えて,恐ろしかった。
もっともっと綺麗な薄い雲の中を,
風のように進んでいくのを想像していた。

初めて山に登った時もそうだった。
車でその山のふもとまで向かっている時は,
すごくきれいな山に見えた。
きっと頂上は天国の眺めだと信じていた。
なのに入っていくと,
「これがさっきまで遠くから見ていた山?」
と思った。
全然綺麗じゃなかった。
ゴミも落ちているし,地面もぐちゃぐちゃ。
頂上だって石ころだらけ…。

私は幼心に,
「綺麗なものには,近づいてはいけないんだ」
と思った。

その後も同じような気持ちを,何度も味わった。
楽しみにしていた修学旅行も
終わってみれば何ともあっけなく,
「こんなもの?」
と思ったし,憧れていた大学に受かっても,
いざ通い始めるとたいしたことなくて,
文句ばっかり出てきた。

夢見ていたアメリカ留学を叶えた時だって,
自分勝手で傲慢なアメリカ人の多さに幻滅し,
夢は叶えてはいけないのかと思った。

それからの私は,いつも煮え切らずに,
周りからはぐずぐずしているように見えるらしい。
好きなものには
一歩手前までしか近づかないだけなのに。
ただの臆病な優柔不断に見えるらしいのだ。
どう思われてもいいや。
夢を叶えて幻滅するのはもうたくさん。

恋人とも結婚の約束をしたまま8年が経つ。
結婚したいほど好きな人だけど,
”結婚”そのものをしたくない。
周りはどんどん結婚していく。
確かにそういう年齢なのだと思う。
でも結婚した友達の口から出るのは愚痴ばかり。

憧れの職業は翻訳家。
外国文学を原文で読んで,
自分の言葉で理解するのが好きだけど,
好きなことは仕事にしたくない。
私の職業は英語と全然関係ない,
インテリアショップの店員。
私はそれで満足している。
好きなことを仕事にして,
幻滅して辞めた友達を私は何人も知っている。

私は間違っていない。
私はいつも一歩手前ですべてを見ている。
「あんたは一体何を考えているのか…」
「おまえは本当に俺を愛しているのか」
「あなたは…難しい子だからね」
どうしてみんなそうやって
私を変わった人扱いするのだろう…?

©2023 alice hanasaki

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