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アルチノテ

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私は思う
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#心臓をポチれよ

小説でも書いてみよう

ボクは喫茶店で向かいの席に座るサトウにそう告げた。彼はその内容に興味津々だ。魔法使いや変身ヒーローが悪の組織と戦うようなファンタジーな物語が彼の好みだ。しかしボクの書きたい小説はそれとは違った。何気ない日常を深掘りしてゆくような内容にするつもりだ。

彼は言う。例えば男二人が喫茶店でコーヒーを飲んでいるだけの話を誰が読みたいと思うんだい?そこで突然、得体の知れない怪物が暴れ出してヒーローがピンチを

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代弁者

人が私に求めるものと、自分のこうでありたいというビジョンには多かれ少なかれ差異があり、あらゆる場面において、どちらのニーズを優先しようとするかの決断すらも、その人間性に関わるものであることに奥深さを見い出せずにはいられない。その逆もしかりである。

三人の上司との残業時間、全員が集中して作業に取り組めば二時間前後で終わる内容。私は早く帰ってゲームがしたかった。ホームシックである。

おもむろにスポ

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ルーシー

日本を今一度せんたくいたし申候

坂本竜馬の言葉である。グローバルスタンダードを求める時代において、日本人特有の素晴らしき数多の美徳あれど、世界に指摘されて見直すべき閉塞的な島国の民の習性はいまだに存在する気がする。事なかれと見ぬふりは代表的な例であろう。

学生時代、通っていた学校にひとりだけ、外国人女性の英語教師がつとめていた。机に手をぶつけて「アウチッ!」が彼女の鉄板ギャグであった。箸転がり

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人に優しく

昼休み、定食屋で魚の定食を食べていると、私の席の隣に同じ仕事着の四人組がやってきた。その中のひとりは小柄な外国人の研修生のような青年、そしてまた別のひとりは会話の内容から、その教育係のような人物であると私は推測した。

聞き耳をたてるワケでもなく会話の全容は丸聞こえである。だって日本はせまいから。青年は教育係の男性をとても慕っているようにみえた。目はキラキラ、顔はニコニコである。

教育係の男性は

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ロンググッパイ

永遠の別れを告げようと
私は部屋を飛び出した

文明の進歩とともに新しく生まれる概念。多くの発明品しかり、入会しやすく退会しがたいコンテンツしかり、電波しかり。便利のために生まれたはずのモノゴトによる新しい煩わしさが、私に選択の意思を迫った。

スマホの契約内容の変更にともないポケットルーターを解約しようと決心。地下鉄内の電波状況にも不満があり、そのストレスも原因のひとつであった。店舗に向かうつも

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アクマで主観~アクマの主観~

とある水曜日、数年前に数ヵ月ほど一緒に仕事をしていた客から1日だけの依頼を受ける。

この日は銀行と役所への私用をまとめて済まそうと、事前に会社へ欠勤の要請を告げていたのであったが、それを理由に返上した。銀行や役所に対して私は思う。

日曜日に働けや

自慢じゃないことないのだが、私の顧客からのリピート率は非常に高い。アナタがいい、アナタじゃなきゃダメ、アナタしか見えない。彼らにそう思わせる何かが

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命の水

崇高な理念も受け手側の捉え方や判断により、その形を歪めてしまうような事象は数多く存在する。

宗教しかり、牛丼屋しかり。

とある月曜日、今週中に終わらせればいいと任された仕事に対して余裕ぶっこいていると、急にやっぱり明日までに終わらせるようにという伝達を受ける。何でも突然、決定した客側の役員の訪問により、その仕事内容が完了した状態を見せておきたいという上層部の主観的なご都合であるらしい。

知る

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旅人はゆく~宿りし者~

人は誰もが旅人である

『月曜日』

仕事を終えて真っ直ぐウチに帰るとパソコンを開きFPSゲームを夢中でプレイする。結果に直結するのでお酒はゲーム中は我慢。ゲーム終了後、シャワーと酒を浴び就寝。

『火曜日』

冷蔵庫の中のタマゴをきらしていたため、駅の改札前のスーパーへ寄り道。あとは月曜日に同じ。

『水曜日』

仕事終わりに我慢できず駅前で一人飲み。泥酔で帰宅、そのまま就寝。深夜に目覚めるもト

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或奇怪忍法伝~参ノ苦無~

一階のロビーで突然、鼻血を出した男性に受付の女性は、すみやかにティッシュとバンソウコウを差し出した。その迅速な対応に私は感動を覚えた。

人の善意に基づいた行動は見ているだけで気持ちのいいものだ。

そのバンソウコウが何を意図していたのか?今の私には、はかりかねるとしてもである。

ある日の午前、社内のエレベーターで私は人の良い二人の後輩と乗り合わせた。

到着した目的のフロアで私が『開く』のボタ

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IN MIND

人には大なり小なり触れてほしくないものがある。

並ぶ自販機の向こうから歩いてきた上司の中川さんが

「おう、おつかれ」

と僕の肩をたたいた。あったかい。彼の平熱はきっと高いに違いない。

彼は恩人で、入社したてのころに僕の失敗を上司からかばってくれた過去がある。中川さんにとっても上司だったのに最後まで、大したことじゃない。これから何とでもなる。そういいながら僕の味方でいてくれたのだ。

その時

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ウィトゲンシュタインはこう語る

突然、現れた新人の事務員さんが、なぜかとても可愛い。やたら可愛い。ぜんぶ可愛い。

なんでも女性社会での洗礼を受け、転職先に弊社を選んだらしいのだが、その判断力が的確なモノであるかどうかについては私は沈黙せざるを得ない。無責任に放たれた言葉の矢が、彼女を動かす要因であったコトは間違いない。

私は人の悪口が好きではない。いや、嫌いではない。しかしそれは気心知れた者を相手に限っての「あの人のああゆう

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茶番劇~どいつもこいつも~

あらゆる難解な言語表現に対する読解力は持ち合わせてはいない。

先日、知人に誘われて、渋々ともに観に行った映画でも、作品のテーマやメッセージ、人物の思想や動機、何もかもが腑に落ちないデキであった。

帰りの電車の中で、その旨を伝えると、その返答が『芸術性』なるものを感覚的に伝えようとする言葉のチョイスばかりで、かなり何言ってるかわからない。

自分から誘った手前、駄作であるとは認め難く、引くに引け

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世界を読め

映画観ない、ドラマ観ない、新聞読まない、本読まない、そんな私に世界が語りかけてくる。

「私を読め」と

さらに世界は語りかけてくる。その声が届かざる者への嘆きの念を。

午後の休憩時間、すぐ近くの公園のベンチでコーヒーを飲んでいると、そこに同僚の田辺と後輩の村井がともに現れた。村井の表情は天気とは裏腹に曇天そのモノのようであった。

田辺は職場での己の役割というものを理解する能力に欠け、進行中の

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渇望の宝玉~水が如く~

あらゆる思想が、私のゆく道に風を立て、吹き抜けてゆく。時には流れに身をまかせ、時にはあらがい、柔軟な対応を心がけているつもりではあるが、結果がともなうかどうかは、また別問題だ。

ある日の出来事、個室の扉に『フタを閉めてから流してください』と書かれた紙が貼ってあった。この理念に触れる度に、私の中に超絶な違和感が込み上げてくるのだが、具体的な説明はここでは割愛する。

そして同日、別の個室では『つま

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