青海かなえ

青くてうつくしいものと光を見る少年少女の白んだ背中が好きです。裸足の少女の強さや、少年…

青海かなえ

青くてうつくしいものと光を見る少年少女の白んだ背中が好きです。裸足の少女の強さや、少年の横顔の儚さも好きです。あと大人のだらしない酔った勢いもすきです。

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記事一覧

夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者の感想〜夏目くんの顔がいい〜

 特典という名の宗教画。  ちなみに観た映画の感想は、PenCakeという日記アプリで記録してるんだけど、これはちゃんと載せとこうかなっておもいました。  どうでもいい…

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薄氷の鯨

「港で大きな魚が見つかったらしい」  おれが独り言のようにつぶやくと、マツバは顔を上げた。伏せられた瞼に白い光がこぼれ落ちる。夢のような、と父が評していた顔だちは…

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父の眼鏡

 父が死んだ時、私はまだ中学生だった。その日、私は学校を早退して、母の車で病院へ向かった。隣に座る姉も運転している母も、一言も会話をしなかった。母はいつも身なり…

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プロローグ

 窓の外は、細い雨が降っている。姉の部屋の窓から見える木々は、細い雨に打たれて小さく震えていた。雨の日に屋内にいると、私がいるこの場所だけが、世界から徐々に切り…

8

眼差し

 祖母の葬儀の後、遺品の整理をしていた。  生前から物が少ない人で、箪笥や収納棚や机の引き出し、どこを探しても必要最低限の日用品しか入っていなかった。物を所有す…

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505号室

 ネックストラップを見つけたのは、娘の病室を片づけているときだった。  娘が亡くなったのは、六歳の冬だった。もともと心臓が弱く、小さい頃から入院していた病室には…

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数学室

 ペンケースを、鍵がかかる引き出しの奥底にしまったままだ。どういう柄だったか、どういう形だったか、どういう手触りだったか、もうぼんやりとしか覚えていない。  私…

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薔薇と骨

砕いた骨を、薔薇の苗と一緒に埋めた。  今から十五年も前のことだ。あの子に懐いていた犬が死んだ。栗色の毛並みをした、まるい目が印象的な大きな犬だった。あの子がお…

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数学室にて

 ペンケースを、ずっと机の引き出しにしまったままでいる。学習机の、鍵がかかる一番上の引き出しの、奥底にしまったままだ。どういう柄だったか、どういう形だったか、ど…

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スイミングスクールのカード

 姉がいなくなって、五年目の夏だった。  その日、私は朝から姉の部屋の掃除をしていた。細く開けた窓から、ぬるい風が滑り込んでくる。小花柄のカーテンが視界の端でか…

5

赤いリボン

サンタマリアに来て数日がたった。年季の入った寝具は、私が腰掛けただけで微かに軋む音を立てた。視界に入った木製の机の上には、赤いトワレの小瓶と、書きかけた手紙がき…

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+2

背景練習

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サンタマリア

 まっすぐ続く水路を、白い小舟が流れてゆく。季節はたしか夏だった。  私はふるびた窓をなれた手つきで開けた。ぼうっと窓の外を眺めていると、ひびきのよいピアノの音…

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少年少女

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薄氷の夜

 この村に来て、一回目の冬が来た。  ハグルマ村の夏は、恐ろしいほど生命力であふれていた。なにもかもかすめ取ってしまう夏に、僕の虚弱な足は震えていた。しかし、秋…

2

夜の砂糖づけ

「ああ、もう二時ですか」 私は、彼の声で急に現実に連れ戻された。左手には彼のヴァイオリンに添えられていて、彼は私の指先に、しんとした視線を向けていた。暖炉が音を…

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夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者の感想〜夏目くんの顔がいい〜

夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者の感想〜夏目くんの顔がいい〜

 特典という名の宗教画。

 ちなみに観た映画の感想は、PenCakeという日記アプリで記録してるんだけど、これはちゃんと載せとこうかなっておもいました。
 どうでもいいけどPenCakeっていう日記アプリのUIがシンプルかつきれいなのでおすすめ。iPadとの同期がちょっとめんどいけど(宣伝)

◯石おこし
 最初にこれをいいたいんですが、夏目貴志の二重幅超可愛くないですか?あとどう見てもニャンコ

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薄氷の鯨

「港で大きな魚が見つかったらしい」

 おれが独り言のようにつぶやくと、マツバは顔を上げた。伏せられた瞼に白い光がこぼれ落ちる。夢のような、と父が評していた顔だちは、御伽話のようにうつくしい。

 マツバは、数年前に父が小姓として連れてきた少年だ。あの頃は今よりずっと痩せていて、身なりもよくなかったが、他の子どもと比べると、うつくしい面立ちだけは抜きん出ていたらしい。父は一目でマツバの容貌を気に

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父の眼鏡

 父が死んだ時、私はまだ中学生だった。その日、私は学校を早退して、母の車で病院へ向かった。隣に座る姉も運転している母も、一言も会話をしなかった。母はいつも身なりに気を使う身綺麗な人だったが、ミラー越しに見る母の顔は化粧っ気がなく憔悴しきっていた。隣に座る姉は、ずっと窓の外を眺めていた。長い髪が姉の横顔を隠す。私たち姉妹は、仲が良かったと思っている。けれど、その日だけは姉が何を考えているか全くわから

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プロローグ

 窓の外は、細い雨が降っている。姉の部屋の窓から見える木々は、細い雨に打たれて小さく震えていた。雨の日に屋内にいると、私がいるこの場所だけが、世界から徐々に切り取られていくような気がする。この部屋は、姉がいなくなった時から何も変わらない。

 父が亡くなって、母が亡くなって、姉がいなくなった。姉がいなくなった朝のことは、よく覚えている。確か、春だった。その日の朝ごはんを作る担当は私だった。たっ

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眼差し

 祖母の葬儀の後、遺品の整理をしていた。

 生前から物が少ない人で、箪笥や収納棚や机の引き出し、どこを探しても必要最低限の日用品しか入っていなかった。物を所有することを避ける人だったのかもしれない。本棚にも本がほとんど並んでいなかった。押入れを開けてみると、衣類の入った収納ラックと、扇風機が入っていた。ひとつずつ取り出していると、押入れの奥に小さな箱を見つけた。古びた菓子箱のようだった。蓋にはフ

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505号室

 ネックストラップを見つけたのは、娘の病室を片づけているときだった。

 娘が亡くなったのは、六歳の冬だった。もともと心臓が弱く、小さい頃から入院していた病室には、僕たちが買い与えたおもちゃやお絵描き帳が残されていた。機械的に袋に詰めていくと、見覚えがあるネックストラップを見つけた。紐の部分は海のように鮮やかな青色をしていて、先には小瓶のついたキーホルダーがぶら下がっていた。小瓶の中には折りたたま

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数学室

 ペンケースを、鍵がかかる引き出しの奥底にしまったままだ。どういう柄だったか、どういう形だったか、どういう手触りだったか、もうぼんやりとしか覚えていない。

 私は高校三年生の三学期に、クラス委員をしていた。大学受験を目前に控えるクラスメイトたちから半ば押し付けられる形で就任した。クラス委員といっても大したことなくて、伝言係や雑用係のような役割だった。彼女と出会ったのも、先生に押し付けられた雑用が

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薔薇と骨

砕いた骨を、薔薇の苗と一緒に埋めた。

 今から十五年も前のことだ。あの子に懐いていた犬が死んだ。栗色の毛並みをした、まるい目が印象的な大きな犬だった。あの子がお腹にいる時からずっと側にいたせいか、随分と懐いていた。あの子は私が作ってあげた犬のブローチがお気に入りで、ランドセルにつけていた。リビングのソファーに図々しく寝転がっている犬の腹に、そっと触れる。生き物のぬくさや、呼吸の気配に目を細める。

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数学室にて

 ペンケースを、ずっと机の引き出しにしまったままでいる。学習机の、鍵がかかる一番上の引き出しの、奥底にしまったままだ。どういう柄だったか、どういう形だったか、どういう手触りだったか、もうぼんやりとしか覚えていない。

 私は高校三年生の三学期に、クラス委員をしていた。大学受験を目前に控えるクラスメイトたちから半ば押し付けられる形で就任した。クラス委員といっても大したことなくて、伝言係や雑用係のよう

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スイミングスクールのカード

 姉がいなくなって、五年目の夏だった。

 その日、私は朝から姉の部屋の掃除をしていた。細く開けた窓から、ぬるい風が滑り込んでくる。小花柄のカーテンが視界の端でかすかに揺れていた。

 姉の部屋は、五年前からずっとそのままの状態で残されていた。勉強机に伏せられている文庫本や、棚に飾られている私と姉が映った写真も、あの日からなにも変わっていない。しかし、うすく積もった埃が、けして短くない時間を感じさ

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赤いリボン

サンタマリアに来て数日がたった。年季の入った寝具は、私が腰掛けただけで微かに軋む音を立てた。視界に入った木製の机の上には、赤いトワレの小瓶と、書きかけた手紙がきれいにそろえておかれていた。
私は、5日ほど前にサンタマリアを訪れた。この地に腰を据えるために訪れたのはいいものの、何も知らないよそ者にすぐに家が見つかるわけはなく、今は大通りの端にあるホテルを仮住まいにしている。清潔なシーツのかかっている

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サンタマリア

 まっすぐ続く水路を、白い小舟が流れてゆく。季節はたしか夏だった。

 私はふるびた窓をなれた手つきで開けた。ぼうっと窓の外を眺めていると、ひびきのよいピアノの音が、ひらりと部屋に入り込んだ。陽の光まぶしさに、私は、目を細めた。
 サンタマリアの風景は、いつだって嘘のようにうつくしい。私はもうずっとここで暮らしているのだが、それでもいつでも新鮮なおどろきを感じる、そんなうつくしさだ。私はこの街のふ

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薄氷の夜

 この村に来て、一回目の冬が来た。

 ハグルマ村の夏は、恐ろしいほど生命力であふれていた。なにもかもかすめ取ってしまう夏に、僕の虚弱な足は震えていた。しかし、秋が来て、冬が来た。ここの冬は冷たくて、透明で、清潔で、寛容だった。

 もう普段の僕ならとうに寝てしまっている時間だった。こんなに夜も深いのに、清潔なベッドに潜っても眠れず、ふらふらとリビングまで歩いてきてしまった。

まだ寄宿寮に入る前

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夜の砂糖づけ

「ああ、もう二時ですか」

私は、彼の声で急に現実に連れ戻された。左手には彼のヴァイオリンに添えられていて、彼は私の指先に、しんとした視線を向けていた。暖炉が音を立てて暖かい光をほの暗い部屋に灯していた。

「す、すみません。知らない間に・・・・・・」

「いいえ、いいですよ。私がマリーに頼んだのですから」

暖炉の火を反射する彼の目は不意に細められた。私はなんだか申し訳なく感じてしまい座っている

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