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灰汁詰めのナヴォー

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小説っぽいなにかがあります
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#逆噴射プラクティス

ひとんかつ 2

ひとんかつ 2

「お待たせいたしました、とんかつ定食です」
「あっ、どうも」

年齢が大学生ぐらいの男性客がスマホを皿の横に置き、前方に置かれているブルドック中濃ソースを手に取った。とんかつの上に横線を描くようにソースをかけて、キャベツにも少しかける。箸でかつのひと切れをつまみ、口に運ぶ。サクッ、歯がほどよい硬さの衣を破る。ジュワッ、肉繊維がちぎられ、肉汁が溢れる。咀嚼が進むにつれて衣の香ばしさと肉の旨み、そして

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報復の王子

ツバメが死んでから2ヶ月が経った。

街の広場では依然として王子の像が佇んでいた。錆に蝕まれ、身体中に「アホ」「Unhappy」「救いはない」「インポ王子」など落書きだらけなりながらも、像は撤去されることがなかった。

像の撤去は金がかかる。像のひとつやふたつに予算を使うなど、この国の財政に余裕がない。

(ボクはなんて愚かなんだ……!)

変わり果てた姿になっても、王子の自我は健在であった。サイ

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ウラシマ・テランの旅立ち 5

ウラシマ・テランの旅立ち 5

ZAAAAAAAP!!!

プラズマボールが浜辺に着弾した。白い光が炸裂し、砂と礫が間欠泉の如く噴き上がった。爆煙と粉塵は漁師たちを飲み込んだ。

「ちょっ、殺したのか!?」
「まさか、威嚇射撃だ!鼓膜破裂か脳震盪にならない保証はないけどね!」

サイボガニックバトルシップであるロンサム・ジョージの圧倒的能力を見せれば、未開化の地球人は悪魔を見たかのように慄き、失禁して逃げ惑うであろうと、アリスタ

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炒飯神太郎

 9世紀、日本某所。あるところにおばあさんがとおじいさんが済んでいました。

 この日、おばあちゃんは洗濯するために川に来ました。バァジュッ!バァジュッ!バァジュッ!川辺に濡れた衣類を棍棒で叩きつける音が響き渡った。石鹸がまた普及していない時代、汚れを落とすには衝撃が一番でした。

「哼ッ! 哼ッ! 哼ッ!」

 棍棒を叩きつける度に、おばあさんの上腕二頭筋、僧帽筋と背広筋が素晴らしく隆起しました

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ようこそ、ユーシャルホテルへ!⑦

ようこそ、ユーシャルホテルへ!⑦

「イルジは背中がきれいだな。わっはすっべすべぇ」
「ありがとう。手入れはしているわ」
「とか言ってそばからニキビはっけん!潰しちゃっていい?」
「痛いからやめて!」
「冗談じゃよ!ほい、塗り終わりましたよ、と」

 ぺちっと、オーポーが私の肩甲骨のあたりを叩いた。流石に気さくすぎ何なんじゃないかと思ったが意外と嫌いな感じではなかった。浴塩のじりじりと背中の皮膚に刺激を与えている。

「今度は私が塗

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受難紀:辛い麺道

受難紀:辛い麺道

ちゅっぶる、ジーザスは汁なし担々麺の最後の一口を啜りきり、咀嚼して嚥下した。その顔が熟したストロベリー以上に赤く、苦痛で歪んでいる。

「先生!」「先生!」弟子のヤコブ扇子で師にかに風を送り、ヨハネが山羊乳が入った茶碗を師の口に当てた。ジーサスはソーセージめいて腫れたくちびるを開けて、山羊乳を含んだ。鼻と髭の先から、涙と汗と鼻水が混ぜた複合体液が滴っている。

「完食!完食です!」筆頭弟子のペトロ

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武・ガイ&テッド・新井 ライフガーディアン双傑!②

武・ガイ&テッド・新井 ライフガーディアン双傑!②

前回

「クラーナ!」「クラーナだ!」

 道路橋の上、塾帰りの小学生たちがウイルスマンの集団に指さして叫んでいる。

「シャダファッカ!」首領格のウイルスマン、クラーナオリジンは手を翳した叫んだ。「クラーナコップ、餓鬼どもに思い知らせてやれ!」
「ガッテン」

 巡査姿のウィルスマン、クラーナコップはホルダーから拳銃を抜き、餓鬼どもに照準を合わせた。元は民衆を守るための公権力が今、民衆に向かって

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幸せの大輪 二枚目

幸せの大輪 二枚目

前回

「えっ、はい?」黄金に輝く女神を見上げて、俺はを恐れながら尋ねた。「すみません、いま何を仰って?」

『ピザを食べたい、と言った』「そうですか」

 そうきたか。大神官は女神が何かをリクエストしたら、必ず応えなければならないと言ったので俺は生きたまま内臓を抜いて捧げる覚悟まで出来ていた。正直ホッとしたぜ。ピザぐらいで満足してくれるなら、いくらでも食らわせてやる。

「ーー分かりました。です

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武・ガイ&テッド・新井 ライフガーディアン双傑!

武・ガイ&テッド・新井 ライフガーディアン双傑!

「ちょっとそこの貴方!駄目じゃないかもう外出禁止の時間ですよ!」

 夕暮れの公園に、気密制服に包まれた警官が滑り台に縋りついてうずくまっているコート姿の男性に声かけた。

「これじゃペナルティかかりますよ。IDを見せて」
「……ラナ」
「はい?」
「儂がクラーナじゃあああ!」
「うわっ!?」

 男は叫びながら飛び上がり、コートを脱ぎ捨てた!全裸絶叫かと思いきや、露わになった皮膚はラバーのような

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ようこそ、ユーシャルホテルへ!⑥

ようこそ、ユーシャルホテルへ!⑥

 ふと目の前が暗くなった、目の周りがとても冷たい物に覆われた。

「目ぇ閉じろ!クソガキ!」

 とても怖い声が耳のそばに響いた。嗄れて、とても低い声だった。もし岩が喋れたらこんな声だろうと思った。そんな声が出せる人、私は一人しか知らない。

「魔女のおばあさん……?」
「目ぇとじろッ!ぶっ殺すぞ!」

 脅されて、私に言う通りにして目を閉じた。燃え上がった家と両親が心配だが、魔女おばあさんが

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チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベチャーハン③

チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベチャーハン③

目次

前回のあらすじ:
 炒漢、ヌベッとしたチャーハンのまがい物を食べたことでマジキレ。

「ちょっ客様!?何をなさって」

 テーブル席に駆け付ける店員を、炒漢はスッと手の平を翳して制した。炒漢はケツを落として座り直し、テーブルの横に置いてあるアンケート用紙にペンシルを走らせた。

「な、なんなんですか一体……」

 助けを求める視線を向けてくる店員に対し、センチ美は肩をすくめた。

「店員さ

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婦人科医のシズ先生:バジリスクの章3

婦人科医のシズ先生:バジリスクの章3

「さすがに……それはないですよ」とダビーがやや呆れた顔で言った。
「そうですね。レイプは言いすぎたかしら。ピーコックは孤独の単独飼育の中で性欲がもて余してたせいで蛇の誘いに乗ったかもしれない。つまり和姦、あるいは取引のある援交か」

 和姦、援交、異種交配などの言葉が脳内に行き来したダビーは顎が外れてしまうほど口を開けたが、言葉が出てこない。

「先生、ミスターダビーがおっしゃりたいのは蛇に化けた

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婦人科医のシズ先生:バジリスクの章2

婦人科医のシズ先生:バジリスクの章2

「は?」ダビーは守るようにピーコックを抱えた。ニワトリは驚いて「ゴゲッ」と鳴いた。

「だめでしょう!何言ってるんですか!?」

「だって私ヴェットじゃないですしー。ニワトリの中絶なんて知りませんしー」

 シズ更にチェアに沈み込んだ。もはやダビーとピーコックに目を向けていない。

「というか、なぜここに来られたんですか?受付所に愛鳥を見せて予約を取ったんですか?作業員を探し出してきつく締める必要

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婦人科医のシズ先生:バジリスクの章

婦人科医のシズ先生:バジリスクの章

 「ゴッゴッゴッゴガ……」

 いつもの診療室にいつもではない患者がやってきた。

 シズの前に、一羽のニワトリが居た。雄で、羽毛は金属の光沢を帯びた黒。トサカは熟したトマトのように赤い。

「二日前、陽がまた昇っていない時、ニワトリが鳴った。騒がしいなと思って鶏舎に向かってドアと開けた途端、一匹の黒い蛇が隙間から這入って出た。わたしは驚いて、エサの袋を取り落とした」

 とニワトリの飼い主、浅黒

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