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武・ガイ&テッド・新井 ライフガーディアン双傑!

「ちょっとそこの貴方!駄目じゃないかもう外出禁止の時間ですよ!」

 夕暮れの公園に、気密制服に包まれた警官が滑り台に縋りついてうずくまっているコート姿の男性に声かけた。

「これじゃペナルティかかりますよ。IDを見せて」
「……ラナ」
「はい?」
「儂がクラーナじゃあああ!」
「うわっ!?」

 男は叫びながら飛び上がり、コートを脱ぎ捨てた!全裸絶叫かと思いきや、露わになった皮膚はラバーのようなツヤを帯びた紫色で、股間に生殖器が見当たらない。頭頂部から画鋲のような突起がにょきっと生えており、明らかに普通の人間ではない。

 警官は拳銃を抜くべく腰に手を回したが、間に合わなかった。クラーナと名乗った怪人が警官に向けて口から紫の煙幕を噴射!

「クルァーッ!」
「わぁアー!!げぼ、コッホ!ウェーガゲッポコ!ローアンドオーダーッホ!」

 警官が激しく咳きこむ。煙幕が散ってゆく……なんということか。警官もまた皮膚が紫色に染まっているではないか!?

「クルァ……私は……クラーナコップ……」
「よく感染(うつ)った、兄弟」

 クラーナはクラーナコップの肩を叩いた。

「共に文明を滅ぼすぞ」
「ガッテン」

 無意味に拳銃をカチャカチャして、クラーナコップはクラーナの後について行った。新たな獲物を求めて、二人は夕暮れの街へ繰り出した。

 ウイルス、それは常に異変し、進化する。そして今、遂にウイルスがはついに人型のウイルスマンに進化し、物理的被害を与えるようになった!

『アラート!アラート!ウイルスマン発見!ウイルスマン発見!ライフガーディアンズ直ちに指令室に集合!WOOOOOOOO!!!』

「むん」

 妙にテンション高いアラート音声で集中が乱れ、やむをえず筋トレを中断したアフロヘア黒人の武・ガイは総重600㎏のプレートを掛けたシャフトを留め具に戻し、ベンチから起き上がった600㎏ベンチ10leps2setを終えた彼の胸と腕は今にも弾けそうにバンプアップしている。素早く汗を拭き、白い空手道着に腕を通すと、自室を出た。

 ここは東京スカイツリーの展望デッキだった場所。ウイルスマンが日本に現れる「グレート・ブレイクアウト」以来、国内の観光が完全に廃れたため、ウイルスマン対策組織のライフガーディアンズが運営会社から買収して自分の拠点とした。

「よう、今日もキレてるね」

 後ろから追いついたカウボーイ風の男、テッド・新井。手の中食べかけのブリトーを持っている。口をもごもごしながら、小走りで武・ガイと並走した。

「まったくウイルスマンはもう少しこっち事情を考えろつーの。落ち着いて飯も食えやしねえ」
「早く食いの技術でも身に着けないとな」
「それは賛同できないね。よく噛んで、よく味わう。うちの婆さんがそう仰った」

 二人はエレベーターに乗り、350階に上がった。フロアの中央、ガーディアンズ指揮官、オーバーマスク中尉がポツンと置かれた机に着席し、周囲に地図や天気、ウイルスマンの情報などがホログラム投影されている。

「ライフガーディアンズ、武・ガイ」
「ライフガーディアンズ、テッド・新井」
「「アット・ユア・サービス」」

 ガイは右拳に左掌を打ち合わせて、テッドはカウボーイハットの縁に右手の人差し指、中指を添えて一礼した。これが任務に臨む際のシークエンスである。

「シュコー、グッナイ、ライフガーディアンズ。ヤスメ、シュコー」

 完全気密のフルフェイズマスクを着けたオーバーマスク中尉は立ち上がり、両手を腰背後に組んだ。

「シュコー、先程水道橋に、ウイルスマンの出没が確認された」

 中尉の背後に映っている東京地図、水道橋の位置に光の点が明滅した。

「ターゲットはクルーナタイプ。偵察ドローンの画像によると、すでに複数の市民が感染している模様。シュコー」

 ホログラム映像に町を歩くウイルスマンの集団が映し出された。数は10人の密陣形。中に警官姿のウイルスマンがドローンの存在に気付き、拳銃を向けて発砲した。映像はここで途絶えた。

「へっ、ポリ公のくせにいい腕じゃねえか。流石にガイの旦那もこれはやりつらいか?」
「問題ない」ガイは腕を組んだ。「おれの武道は現代兵器を凌駕する。おまえの援護もあれば、楽勝だ」
「ふっ、持ち上げてくれるぜ……」

 テッドはニヤけて、腰に提げているガンホルダーを撫でた。

「シュコー、政府からの出動要請と、外出許可は下されている。シュコー、直ちに現場へ急行し、感染を食い止めよう!」

「「イエッサー」」

「最後に、解っていると思うが、シュコー、ジュォォー……」フルマスク中尉は嘆くのように重い息を吐き、間を置いて話を続けた。「一度ウイルスマンになった人間はを元に戻す方法は、現時点では存在しない。故にウイルスマンの対処法はただ一つーー」

「「消滅あるのみ」」

  テッドとガイは同時に言った。中尉は頷く。

「心が痛むが、そうするしかない。ライフガーディアンズ、ゴッドスピート」
「「ラジャー」」

 テッドとガイはもう一度敬礼し、エレベーターに駆け込んだ。

 450階、もとは天望回廊だった場所は、今やライフガーディアンズの強襲輸送機、「即時雨」の格納庫兼飛行デッキに改装されていた!

「ヒヨコからマザーイーグルへ、各数値正常、セフティチェックOK、マスク着用OK。出れます。テイクオフ許可を求める」

 メインパイロット席に座るテッドは無線で航空管制官の鷹山へ通達した。

『こちらマザーイーグル。テイクオフを許可する。いまからデッキを変形させる。幸運を祈るわ』
「サンキューマザーイーグル」通信を切り、テッドは機内チャンネルで後ろのサブパイロット席にいるガイに話しかけた。
「旦那、ウイルスマンどもに一発ぶちかましてやろうな!」
「……」

 ガイからの返事はなかった。気密バトルマスクの下、彼は目を閉じて調息していた。

「禅だね……」とテッドは呟いた。

 ゴゴゴゴ……雄々しいモーターが鳴り響き、飛行デッキを覆う強化カーテンウォールがスライド展開し、強風が飛行デッキに注ぎ込んだ。

「何度見てもカッコイイね。まるでG.I.JOEだ」

 テッドはそう言い、ゆっくり加速を掛けた。即時雨は微速で進行し、塔の横から生えた30mの滑走路へ進み出た。ジェットエンジンが咆哮し、スラスターから噴き出る炎が赤橙から青に変わる!

「OK……じゃあ行くぜ!即時雨、テイクオフッ!」

 BOOOOM!即時雨は垂直上昇してから急加速し、夕焼けの空を横切った。

(続く)

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