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チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベチャーハン③

目次

前回のあらすじ:
 炒漢、ヌベッとしたチャーハンのまがい物を食べたことでマジキレ。

「ちょっ客様!?何をなさって」

 テーブル席に駆け付ける店員を、炒漢はスッと手の平を翳して制した。炒漢はケツを落として座り直し、テーブルの横に置いてあるアンケート用紙にペンシルを走らせた。

「な、なんなんですか一体……」

 助けを求める視線を向けてくる店員に対し、センチ美は肩をすくめた。

「店員さん、気の毒ですけど。もう誰も彼を止められないよ」
「止める?なんで止める必要があるんですか?僕はただ様子を伺おうと……」
『アンケートを書いた。受け取ってくれ』
「あっはい。ご協力いただきありがとうございました!」

 店員反射的に炒漢が差し出したアンケート用紙を受け取り、目を通した。

本日は覇味庵をご利用いただきありがとうございます
よりお客様を喜んでいただけるよう、当店ではお客様にアンケートへの回答をお願いしております。お気づきの点がございましたら、ご意見、ご要望を記入してください。
・ご注文頂いたメニュー:海鮮餡かけチャーハン
・メニューの品ぞろえはいかがでしたか。
 ☐多い ☐やや多い ☑どちらとも言えない ☐やや少ない ☐少ない
・料理は味はいかがでしたか。
 ☐良い ☐やや良い ☐どちらとも言えない ☐やや悪い ☑悪い
・店内の環境は清潔でしたか。
 ☐良い ☑やや良い ☐どちらとも言えない ☐やや悪い ☐悪い
・接客はいかがでしたか。
 ☑良い ☐やや良い ☐どちらとも言えない ☐やや悪い ☐悪い
・価額は適正でしたか。
 ☐良い ☑やや良い ☐どちらとも言えない ☐やや悪い ☐悪い
・ほかにご意見、ご用意があれば、お書きください。
 これはクレームだ。チャーハンが最悪で私の怒りが爆発寸前。いや、爆発した。店長かシェフに会わせろ。

お名前:チャーハン炒漢  年齢:20代  性別:神

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「……ご意見いただいてありがとうござました。後に区会議で提出させていただき」
『意見の欄を見なかったか?店長あるいはシェフと話したいと書いたはずだ』
「いや、それはさすがに今は」
『なに?何が不都合があっても?報告、連絡、相談。ビジネス基本中の基本では?』
「うぅ……」
「店員さん。もう店長に会わせてやってくださいよ」センチ美は頬杖しながら言った。「目的を果たすまで帰らないのですよこの人。特にチャーハンに関わると」
「そんな、たかがチャーハンで……」
『たかがチャーハンだと!?』
「ひっ」

 パーン!炒漢はテーブルを叩いた!立ち上がって店員に凄む!

『貴様にはわかるまい……チャーネットに通してくる、米と具の悲鳴を、チャーハン秩序の乱れを。それを、たかがチャーハンの一言で済ませると思うか!?』
「ひぃぃぃ!?」
『これ以上の会話は無駄のようだ。厨房を確認させていただく』
「あっ、いや待ってくださいよ!」

 店員を押しのけて、炒漢は厨房の方へ向かおうとした、その時。

 カラーン。店の奥にいた客がわざと声を立て、スプーンを皿に置いて、立ち上がった。皿の中にあるチャーハンはまた半分が残っている。

 店員、センチ美、そして炒漢。店内にいる全員の視線は男に集まった。

「そこの兄ちゃん、ちょっと待たれや」
『なに?』

 皮膚がビーチで日光浴を堪能したイギリス人親父のように赤く、メガネをかけた男は炒漢の前に立ち、行く手を阻んだ。炒漢は警戒を強めて、店員は救世主でも見たかのように彼期待の眼光を送った。

「青髪兄ちゃんの言う通りやで。この店のチャーハンはチャーハンちゃう、チャーハンもどきや」
『ほう……貴方もそう思っているか』同士を見つけて感嘆する炒漢。
「そんな!」期待が外れて落胆した店員。

「特に舌ざわりが最悪。ヌベッとした感じや。こんなもんわてが知る覇味庵チャーハンとちゃう。覇味庵はとっくの昔ほんまシェフがおらんと知っとるやけど、ここまで堕ちたんやな。兄ちゃん、厨房にカチコミしたければ、わてが加勢すんねん」
『ああ。もちろん歓迎するぞ。えっと』
「トマトンって呼んでおくれ」
『そうか。では行くか、トマトン!』

 炒漢はICカード式電気錠ドアのドアノブの握り、捻る!破壊!

「もう……僕は知りませんよぉ……」

 店員は離れた場所で、何かに怯えているように肩を縮めた。炒漢はゆっくりとドアを押した。

 もぅわァァァァ……まるでスチームバスに匹敵するような熱と粘りを帯びた蒸気がドアの隙間から溢れ出る!蒸気がトマトンのメガネに結露し、視界を白く染めた。

「うお!?何も見えん!」

 メガネを外して着ているポロシャツで拭くトマトンを待たず、炒漢は厨房に踏み入れた。

『これは面妖な……』

 ぬべ……ぬめ……

 蒸気が漂う厨房の中で、おたまで鍋を混ぜ、包丁で野菜を切り、流し台で皿洗いしているの、アメーバが巨大化したような、灰色の濁りが混じった半透明のぬめぬめとした物体であった。

(つづく)

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