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バルセロナでパリージョにも翻弄された私

パリージョ(またはパリーヨ)とは、日本語でつまようじ
日本のつまようじとは違って、スペインのつまようじは、上の写真にあるような、両端がとんがっていて、表面が平べったい、パッと見るととんがりフライドポテトのようなものです。

海外のビジネスパートナーとの間では、挨拶のキスに、ひとり翻弄されたエピソードを紹介しましたが、今回は大の大人8人がパリージョに翻弄されたお話です。
キスの回数でモヤモヤしたお話はこちらから↓)


そのときの出張は、パリでしたが、急遽バルセロナに行かなければならなくなりました。
同じEU圏内でもあるので、ヨーロッパの人からすると、「ちょっとそこまで」感覚らしいです。

予定が変更になったことを日本の上司に報告して、バルセロナに向かいました。


空港にて。

空港に着いてメールをチェックすると、上司からメールが入っていました。

「akkie、お疲れ。実はお願いがあってさ。
僕の友だちが、池袋でスペイン料理のお店やってるんだよ。
その店のこだわりは、何から何までスペインのものをお客さんに使ってもらうことなんだけど、つまようじの在庫が尽きたらしくてさ。
スペインのつまようじは、日本では手に入らないから困ってるんだよ。
彼にはいつもお世話になってるから、サプライズでプレゼントしたくてさ。
個人的なお願いで申し訳ないんだけど、買って来てくれる?
普通のつまようじだから、値段も大したことないと思う。
つまようじはスペイン語で”パリージョ”ね、写真はこちら。」

両端がとんがっていて表面が平べったいパリージョの写真が添付されていました。

(つまようじなら、その辺のスーパーに売ってるっしょ。全然オッケー!)
ということで、

「いいですよ~。
サプライズ、喜んでもらえるといいですね!
その辺のスーパーで見つけたら買っておきます。」

と返信して、バルセロナのオフィスに向かいました。


オフィスでのミーティングを終えた後、バルセロナオフィスで働いている、ビジネスパートナーのイアン(イギリス人)に、上司が送ってきた写真を見せながら、聞いてみました。

「私、スペインのつまようじをお土産に買ってきて欲しい、って上司に頼まれてるんですけど、この辺にスーパーありますか?」

「へぇ、見たことないなぁ。
だけど、僕まだバルセロナに住んで日が浅いから、知らないだけかも。
akkie疲れてるだろうから、僕が帰りにスーパーに寄って買っとくよ。
僕の家の近くに、おっきいスーパーあるし。」

(それ、めっちゃ助かる・・。さすが本場イギリスのジェントルマン ♪)
事実、時差ボケで眠くて、少しでも早く横になりたかったので、お言葉に甘え、その日はホテルに戻って爆睡しました。


翌日。

オフィスに行くと、イアンが私の席にやって来ました。
「Good morning!
昨日お願いされたパリージョなんだけどね、スーパーに売ってなかったんだよ。
僕はスペイン語は上手じゃないから、akkieが送ってくれたパリージョの写真見せて、店員さんに聞いたら、見たことないって言われちゃってさ。」

つまようじ見たことない?
上司のメールには、確かに「スペイン」と書いてある。

(大手のスーパーなのに、つまようじ売ってないなんて、イケてないなぁ。しかも見たことないって・・。)

だけど、これ以上、イアンに面倒をかけるわけにもいかないので、

「大丈夫です。今日、帰りに別のスーパー行ってみます!」

と言って、仕事を終えたあと、オフィス近くの大きめのスーパーに行きました。

昨日のイアンと同様、写真を見せながら
「すみません、パリージョはどの売り場にありますか?」
と店員さんに聞くと、その店員さんは、そっけなく


ないよ。


(ないって・・。いや、待てよ。スペインでは、つまようじはスーパーには売ってないのかも。むしろ、スーパー以外なら売ってるかも。)

アプローチを変えて、デパートに行きました。
バルセロナの街のど真ん中、カタルーニャ広場にでんっ!と構えている超有名デパートです。ここなら間違いないはず。
地下食品売り場で、店員さんに写真を見せながら聞きました。

「すみません、パリージョは、どこの売り場にありますか?」


ないよ。


(え~、またぁ?)

今度はひるまずに、もう少し突っ込んで聞いてみました。

「あの、パリージョを買いたいのですが、どこに売ってますか?」


「それ、見たことないから、よくわかんない。


へっ??
日本のスペイン料理店で使われている、「スペインのつまようじ」は、スペインでは売ってないの??

デパートを出たあと、周辺の日用品屋さんを歩き回り、ホテルに戻ってホテルスタッフにも聞いてみましたが、みんな口をそろえて


「それ、見たことない。

と、言うのです。


3日目のお昼。

パリージョに翻弄されて3日目。

「akkie、パリージョ見つかった?」

と、イアンが聞いてきてくれました。

「ううん。やっぱりどこにも売ってない・・
むしろ、見たことないって言われました。」

「じゃ、僕のチームのスペイン人に聞いてみるよ。」

そう言って、イアンは、自分のチームのスペイン人のメンバーに聞いてくれました。


「akkie、どうやら、バスク地方に行くと売ってるらしい。
ここはカタルーニャだから、そういうやつ、ないんだって。
バルセロナからバスクまで片道5時間はかかるよ。」

カタルーニャ??私、いま、バルセロナにいるんだよね?
「すみません、おっしゃることがよく分からないのですが。ここスペインですよね?」

「そう。スペインだけど、バルセロナはカタルーニャ自治州にあるの。
カタルーニャの人は、民族意識が高くて、スペインのものを取り入れるっていうより、カタルーニャの伝統を守るっていう傾向が強いんだよね~。
だからなのか、誰もパリージョ見たことないみたい。」


なるほど・・。
さすがに、つまようじのために、片道5時間かけてバスクに行く時間も気力もない。

(残念だけど、上司にはごめんなさい、って謝ろう。)

「わかりました。ありがとうございます。
実は、上司が日本でスペイン料理店をやってる友人に、サプライズでプレゼントしたいらしいんですが、諦めてもらいます。」

と、イアンやチームメンバーに今回の経緯を軽く説明して、探してくれてたお礼を伝えました。
すると、

「待って。サプライズプレゼントなの?それなら、何とかしなきゃ!
akkie、バルセロナにいるの明日までだよね?
これからみんなで全力で探すから。諦めないで!

サプライズプレゼント」という響きが、イアンとチームメンバーのスイッチを入れてしまったようです。

イアン配下のチームメンバー6人がバルセロナ中に散らばり、いまや幻となったパリージョを探しに、オフィスを出て行きました。

「あの~、みんな仕事は??」

仕事をほったらかしにして、探しに出て行った人もいるはず。
心配になってイアンに聞くと、

「No Problem!
僕らのミッションは、ビジネスパートナーの君たちに、最大限の貢献をすること。
akkieは、わざわざバルセロナに来てくれてるんだし、akkieの上司の友人が日本でパリージョが手に入らなくて困っているなら、サポートさせて欲しい(^_-)-☆」

(No Problemなの?大丈夫なの?
貢献の方向性がちょっと違うのでは・・?
と思いつつ、忙しい彼らが、わざわざ貴重な時間を使ってバルセロナ中を探し回ってくれていることに、じわっと感動しました。


3日目の夜。

夜になり、オフィスから出なければならない時間になったので、イアンとオフィス近くのバーで、チームメンバーからの報告を待つことにしました。

1時間ほどして、イアンの携帯が鳴りました。

「えっ、見つかった?
すごい、アレックス(スペイン人)、ありがとう!」

どうやら、パリージョは、バルセロナの端っこの町にある、小さな雑貨店に、ひとつだけ2ユーロで売っていたようです。

バルセロナの街に散らばったチームメンバーをバーに召集して、アレックスがゲットしてくれた、貴重なパリージョを待ちます。


「ブラジルの貴公子」サッカー選手のカカにそっくりのイケメン、アレックスがバーにやって来ました。

あちこち探し回ってくれたので、汗ばんでいます。
茶色のくしゃくしゃの小さな紙袋を、誇らしげに私に差し出すアレックス。

「きれいにラッピングしてなくてごめんね。
そういうお店じゃなかったからさ。」

袋を開けると、ちょっと大きなマッチ箱のような、何かは分からないけど、赤いイラストが描かれた、紙の箱がお目見えしました。

私はその箱をうやうやしく取り出し、集まったみんなの前で箱を開け、中から1本だけパリージョを取り出して、みんなの目の前に掲げました。

おー!これがパリージョ
意外と薄い木で出来てるんだね~。」

イアンとアレックスとチームメンバー、そして私・・大の大人総勢8人が、1本のパリージョに顔を近づけて、真剣に眺めたり手に取ったりする姿に、バーの他のお客さんが気になったようで、チラッ、チラッと横目で見ていました。

私がそのパリージョを、お客さんたちにも見せてあげると、やはり感動してくれました。

バーのお客さんたちも、いつのまにか私たちの輪に入り、みんなで今回のヒーロー、アレックスに祝杯を上げました。

そして各々が「僕の/私のパリージョ探しの苦労話」を披露し合い、チームワークの素晴らしさを讃え合いました。


日本に帰る日。

貴重なパリージョの箱がつぶれないよう、大切に布にくるんで、スーツケースに入れ、バルセロナを発ちました。

そして、みんなの想いと一緒に、幻のパリージョを上司に差し出して、私の役目は無事終えることができたのでした。


このバルセロナ滞在中、仕事の合間に行った「日本のお作法」レッスン。
次回はタクシーの上座・下座にまつわるエピソードをお話します。



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