マガジンのカバー画像

ショートショート

11
短くて不思議な話、ショートショート。
運営しているクリエイター

#ショートショート

スノードーム

スノードーム

出張先の町外れの小さな商店街で見つけたスノードーム。
少し大ぶりな形をしていて、中には銀色がみの紙吹雪のようなものが舞っている。
これまで特に興味もなかったが、なぜかこのスノードームだけは違った。

今はほどんど会話がなくなってしまったあの人とのきっかけになるかもしれないと感じた。
結婚して共働きですれちがい増えていった。仲が良いわけでも悪いわけでもないあの人との生活が苦しくなってしまったのはいつ

もっとみる
ボードゲーム

ボードゲーム

丸型のテーブルに広げられたマス目のあるボード。椅子は5つ。
自分の親に、面白いもの見せてやると連れられてここにきた。
「またいつもの始めましょうか」
「お前は本当に好きだね」
「それぐらいしかやることがないんだよ」
すでに、4つの席には見知らぬものたちが座っていた。
中央には青く宝石のように輝く、サイコロのような立方体。
「ではスタートします!」
部屋の扉から一番遠い椅子に座るもの親が立方体の触れ

もっとみる
はしご

はしご

どうしても超えられない壁はあるのかもしれない。

憧れた門の前に立ち尽くすしていた。現役生で迎えた去年は全く歯が立たず、諦めきれない僕はすぐに今年も挑戦することにしていた。
全力は尽くしたが結果はいいものでなかった。自分の個人情報が印字された少しただの髪を右手で握りこんでいた。

すると、目の前から校舎に向けて真っ白のはしごが伸びていった。それはぐんぐん伸びていきついに50mはあろう屋根まで届いて

もっとみる
影どろぼう

影どろぼう

勉強も運動も苦手だった。
運動会の徒競走では一番最後だし、テストでは毎回お母さんに怒られるかひやひやすることばかりだった。

学校の帰り道、目の前にはクラスに人気者の男の子がいた。彼は運動も勉強もできる僕とは正反対の人。夕方の日差しが強い日、彼の後ろには細く、長く、それでいて大きく見える影が伸びていた。
僕はなんともなしに彼の影を踏んだ。

すると、彼はそのまま歩いているのに、影だけは僕に踏まれた

もっとみる
タイムクロスウォーカー

タイムクロスウォーカー

タイムトラベラーは時間を進めて未来に飛んだり、また戻して過去に行くことができる。時間というベクトルを前後に進行する。

では、時間を横切ることができたとしたら?他の人の時間ベクトルと直角に移動することができたとしたら?

このベクトルは通常の時間ベクトルに対して直角に伸びていく。

通常の時間ベクトルが2本あったとして、1番近い方と同じ時間でぶつかった場合、この2つのベクトルは進み続けているから、

もっとみる
言葉の海、分離と結合

言葉の海、分離と結合

私のいる「あ行」から、彼女の場所へ向かうにはとてもとても分厚い壁が存在している。事実数十万のものたちをかいくぐって目的の場所にたどり着くのは並大抵のことではないだろう。ここでは言葉が無数のものたちが出会い、別れ、分裂と結合を繰り返している。

初めて彼女をことを知ったのは半年ほど前、自分のいるページが開いた時、いつもと違う景色が広がっていた。それは遠く、澄み渡り、鬱屈とした気持ちを優しく撫でてくれ

もっとみる
砂場の創造主

砂場の創造主

誰にでもその人にしかできないことがある。
スポーツができる人、勉強ができる人、楽器ができる人。だが私は更にその上をいく!何故なら私はこの街の創造主、つまりすべての母である。

私はなんだってできる。道具ひとつで誰もみたことがないような美しい絵を描く。地形を動かして山を作ることもできる。この腕を一振りすればその山にトンネルを通すこともできる。

となりはどうだ。みたことがない特殊な道具を使っているに

もっとみる
なぜなぜ木

なぜなぜ木

僕に家の庭には小さなリンゴの木がある。
いつから生えているのかわからない不思議な木だ。季節に関係なくふとした時に大きなりんごがまるまると実っている。
僕がわからないこととか、なんでか知りたいことがある時に限って実ができている。
お母さんに、どうして空は青いの?と聞いても答えてくれなかった。けれど、その時についていた身を採って一口かじると、頭の中に声が聞こえてきた。
「空が青いのは、人が上を見てくれ

もっとみる
蛇口の秘密

蛇口の秘密

僕の鼻は蛇口になっている。学校の水飲み場にあるような銀色のあれだ。その出口は口の上にある。しかもその蛇口から出てくるのは自分が欲しいと思ったものだ。コーラが飲みたくなったら、口を上に向けて蛇口を捻るとコーラがでてくる。お茶も、ジュースも、水もでてくる。サッカー部の僕にとってはとても便利だ。好きな時に水分補給ができる。
監督に隠れて、練習中に大好きなサイダーを飲むことも。
今年で小学校も卒業だ。でも

もっとみる
月とうさぎ

月とうさぎ

ここから見える人々とても小さい。その彼らからはどんな風に見えているのだろうか。いつも通り当番制の役割を終え、体を少しだけ折りたたんだ窮屈なポーズから解放された。次に並んでいるのはカニの彼だ。
月では、それぞれポーズをとりながら人に見られてもいいように順番に役割をこなす。カニ、ワニ、髪の長い女性、老婆、新入りの親子カンガルー、そして僕だ。
殺風景な宇宙にアートをという太陽からのオーダーだった。
しか

もっとみる
空の色、雨の色

空の色、雨の色

暗鬱な空、彩りがない空気。

この街は僕が生まれた時からそうだった。車の排気ガスか、工場の汚染物質か、この街の空は元からそうだったのか、僕にはわからなかった。

学校の帰り道、右頬に何かがかすかに触れた。雨だ。今日は天気予報では雨が降るとは言っていなかった。

ふと右ほほを触ると、指が緑色になっていた。

空を見上げた。すると空から色とりどりの雨が降っていた。雨は透明なものしか見たことがない。しか

もっとみる