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エールを送る。

先が見えない闇の中を、ただ走っているように感じる。この一瞬、一瞬が、怖くて、不安で、でも後で考えると、たまらなく愛おしくて。
そんな今を、私は生きている。

これから書くストーリーは、誰のためというよりも、今を必死に頑張っている「あなたのため」に書く。

辛くて、がむしゃらで荒野のような毎日を過ごしているあなたへ。

「エールを送る。」


小さな頃には、夢っぽいもの。


小さい頃から歌が好きだった。歌を聴くのも好きで、よくお母さんと車の中で熱唱してたっけな。

そんな私は、今高校生。17歳という年齢は、進路をそろそろ決めなくてはいけない、不安定で難しい年頃だ。

そんな私には、夢がある。それは歌手になること。

いつからか言えなくなったような夢でも、私の中にはひっそりと今でも生き続けている。

でも、学校の先生には言えない。何なら家族にも言えない。

友達には応援されているけど、何だかなあ。

「さちの歌ってほんと元気でるよね。私録音した曲ずっと聴いてるもん」

そんなことを言われると、私だって天狗になるよ。

言葉に出すって、もどかしい。

進路相談。そろそろ本格的に進路を決めなくてはいけない。

「さち、このままの成績じゃ留年しちゃうぞ」

前に担任の先生から言われた言葉が脳裏によぎる。

「先生、私、歌手になろうと思うんです。でも、どうしたらいいのかわからなくて、先生に相談しました。」

私が決死の覚悟で、担任の先生に相談すると、

たまに学校に来ている非常勤の音楽の先生を紹介してくれた。
何だか笑顔が爽やかで、何を考えてるのかさっぱりわからない顔だ。

「あなたがさちさんね。歌手になりたいんだって。」

「はい。歌うのが…好きで。歌が..好きで。」

上手く言葉にできないけれど、私の歌う理由はこれだった。

「どんな歌手になりたいの?」

どんな歌手…考えた事もなかった。想像した事もなかった。

私が歌を歌う理由。歌が好きだからではいけないのか。

「だったら、路上で歌ってみなさい。私も横につくから。」

路上ではいつか歌いたかったから、私は二つ返事でYESを出した。

綴る言葉が、もろく見えた。

路上では何人かの人が歌っている。

みんな年上だ。

この中で歌うのか。緊張する。

でも…毎日歌っているんだ。先生もいる。歌ってみよう。やってみよう。

震える足を何とか抑えて、私はマイクを握りしめた。

音楽が始まる。よーし…あれ、

声が出ない。上手く、歌えない。

急に目の前が真っ暗になった。あれ、私、歌うのが好きなんだったけ。


あれから一週間が過ぎた。私はあれから先生のところに行っていない。

ノートに綴った、「歌手になる」の一言も、悲しく、今の私の前では、寂れている。

すると、先生が来てくれた。

「どうだった。」

「先生、私」あれから感じたことを、涙のように、いや、涙と一緒に、全てはきだした。

「私、どうすればいいんですか。」「こんな私でも歌手になりたいんです。」

「じゃあ、今度は、マイクを持たずに路上にいこう。」

あなたへ、エールを送る。


「あなたには、この人たちはどう見える?」

過ぎ去っていく大人たちの姿を見て、先生は言った。

「私には…」

正直、私には、みんなが疲れて見える。下を向いている人もいるし、携帯を触っている人もいる。一日、何時間も、他人のために、働いているのか。

よく考えたら、我が家もそうだったな。

家に帰ると、笑顔の裏にある「たくさんのしんどさ」を感じる。

「私には、辛そうに見えます。苦しそうに見えます。大人になるってこういうことですか?」

「あなたには、辛そうに見えるのね。確かに、私にもそう見えるわ。でもね、見えないものもあるのよ。」

「見えないもの…」

「さっき、あなたは辛そうに見えるって言ったよね。でも、そんな辛さや苦しさと一緒に生きながら、必死に前に歩いているように見える。

見方次第で、私には、とても美しいものに見えるわ。」

先生の一言で、私の見え方も変わった。

あれ、あの革靴、とてもすり減ってるな、とか。よく見たら、携帯の中には家族の写真があるんじゃないか、とか。そういや、私も家に帰ったらよく笑っているな、とか。

「先生、見えないって、もどかしいね。」

「もどかしいよ。もどかしいけどね、こういう経験をすることで、私は人にやさしくなると思うの。そして、そのやさしさを他人だけじゃなくって、自分にも向けられることができる人もいるのよ。すごいよね。私もまだまだだよ。

でも、そういう経験をしていくことが、人を大人にしていくの。年齢が人を区切りやすいけど、子供っぽい大人もたくさんいるのよ。

あなたには、そうやって大人になってほしいな。」

「先生、私、やっぱり歌いたい。」

誰のためでもなく、目の前を必死に生きているあなたへ。暗闇の中を必死にもがいているあなたへ。泣きながらでも、今日を生き、明日を迎えるあなたへ。

そして、そんな歌を歌っている、誰でもない、私へ。

エールを送る。

「一緒にがんばろう」

fight!

新川幸。 





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