コンタクトを落とした日。(今朝は、グァテマラのコーヒー)
――なにしてるの?
――……アルネ?
――見えないの?
――コンタクト落とした……。
――あ、あった。でもこれ、だいぶ歪んで乾いてる。
――そっか。もう期限切れだったしな。
――新しいのは?
――ない。注文して、待ってるところ。
――じゃあ、しばらくメガネね。
――うん……。
そんなわけなので、しぶしぶメガネをかけて、改めてアルネに向き合った。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――不服そうね。
――不服というか……うちにいるときしか、付けないから。
――今は、うちにいるじゃない。
――そうなんだけど……。コンタクト付けないと、一日が始まった気がしないよ。
――でも、替えがないんでしょ? それに、付けないと危ないわ。
――まあ……うん。今朝はなにがいい?
――コーヒーがいい。
――わかった。
そんな気がしていたので、豆はあらかじめ解凍しておいたのだった。今朝は、グァテマラ。少し、チョコレートみたいな味がするコーヒー。
ぽたぽたドリップしていると、アルネが覗き込んでくる。ぼくは、少し緊張する。
――はい、どうぞ。
――少し、甘い匂いがする。変なの。コーヒーなのに。
――甘いコーヒーもあるんだよ。世の中には。
――それが好きなの?
――苦いのも好きだよ。
――ねえ。ずっと苦い顔してる。
――? ぼく?
――メガネはそんなに窮屈?
――窮屈……まあ、そうかもしれない。フレームが視界に入り込むんだもの。気になるよ。
――だから、朝と夜にしか付けないのね。
――うん。……でも、嫌いじゃないよ。外したいときに外せるから、気楽だよ。
――じゃあ、いつもメガネでいいんじゃない?
――それは嫌だな。やっぱり、気になるよ。それに、ぼくはよくぼんやりするからね。外まで付けていったら、メガネが壊れるんじゃないかな。
――でも、しばらくは外でも付けなきゃね。
――……まあね。
――似合ってるわよ。
――そうかな。10年以上使ってるけど……違和感しかないよ。
――嫌いじゃないんでしょう?
――……。
――ちゃんと仲よくしなきゃだめよ。
――はい。
仲よく、か。むずかしいな。まあ、毎日付けてはいるんだけど。長時間付けてはいないから。べたべたしなくても、仲よしといえるなら。まあ、そうなのかもしれない。
コーヒーを飲んでいると、メガネが曇る。少し熱めに淹れたからだ。ぼくは曇りガラスの向こうにいるアルネを眺めながら、残りを飲み干した。
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