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「周りの人と同じじゃない。『人間そっくり』なのは、ぼくだ」

文庫本のカバーの折り返しに、著者プロフィールがあって。昨日、一年ぶりに買った小説――安部公房は、ぼくが生まれた年に亡くなっている。「だから何?」と言われれば、それまでなんだけど。なぜか、ものすごく気にする自分がいるのだった。

まず社交家という柄じゃないな。むしろ、ひとりよがりで、猜疑心が強くて、淋しがりやのくせに、エゴイストというタイプじゃないのかな。

――安部公房『人間そっくり』より引用

それにしても、久しぶりに読んだ。安部公房。今まで読んだことがあるのは、『砂の女』と『笑う月』。『笑う月』は短編集で、国語の教科書に大抵載っている(と思っている)『鞄』目当てで買ったので、その他はちゃんと目を通していなかったりする。(『睡眠誘導術』は読んだ。不眠症だから。あまり役に立たなかったけど。)


そして、『人間そっくり』。「ああ、腹が立つ。腹が立つ」と怒りをふつふつと湧かせながら、頁をめくっている。そんな理由だった。今まで、安部公房に食指が伸びなかったのは。


安部公房に罪はない。たとえ目の前に現れても、胸ぐらを摑むとか、そういうのはない。罪があるとすれば、ぼくの方だ。もちろん話によるんだけど、自分を見透かされているようで、嫌になる。『人間そっくり』の、先に引用した部分とか。一文字違わず、ぼくじゃないか。考えようによっては、「自分のような人間は、他にも大勢いる」ことになる。良いような、悪いような。「仲間がいたところで」と、ひとりよがりのぼくは思ってしまうけど。

しかしあいにく、ぼくの精神状態のほうは、さほど上天気とは言えなかったのである。

――安部公房『人間そっくり』より引用

安部公房とは関係なく、昨日のぼくはひどかった。特に何があったわけでもないのに(なので、厄介なんだけど。)どうしようもない絶望感に襲われ、涙をぼろぼろこぼし、頭をかきむしった。「死にたい死にたい生きててごめんなさい」膝を抱えて、首をぐっと縮めて、その衝動をこらえるのに必死だった。「ひとりよがりで、猜疑心が強くて、エゴイストで」頓服を飲んでもおさまらず、早すぎる時間に睡眠薬を飲んで、強制的に眠った。まだ昼だったので、目を覚ましたときは19時にもなっていなくて、でも波はだいぶ凪いでいた。


「人間じゃない」ぼくは思う。「周りの人と同じじゃない。『人間そっくり』なのは、ぼくだ」悲しくて悲しくて、やりきれない。そっくりなだけだけど、人間として生きたいんです。ごめんなさい。誰にするでもない言い訳を、ぼくは毎月くり返している。

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