あたたかい人と、飲みものと(今朝は、ぬるめの白湯)
起き上がれない。のは、めずらしくない。でも、このごろは特にひどい。何時間でも、ふつふつ眠れる気がする。あんまり眠ると、頭痛がする。眠りたいけど、眠りたくない。重力に逆らえないぼくは、もがいている。
――なにをしているの? 寝ぼすけさん。
――寝ぼすけじゃないよ、アルネ。
と、ぼくは強がりを言い、アルネは肩をすくめる。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――どうしたの? 具合が悪いの?
――具合は年中悪いよ。……頭の。
――体は?
――今朝は、体も悪い。
――どうしたものかしら。
――どうしたらいいと思う?
――こんなときには、温かいものね。
――温かいもの……。
――体に障りのないもの……。白湯はどう?
――ああ、それなら。お湯を沸かすくらいなら、今のぼくにもできるよ。
這いずりながら、ぼくは立ち上がった。眠ってばかりいたので、立ちくらみがする。貧血でもある。壁に手を付きながら、ケトルに水を注ぎ、火にかける。壁にもたれているぼくは、目をつむって、お湯になるのを待つ。
――よし。……はい、どうぞ。
――ありがとう。
――……んん。温かい。少し、落ち着いてきた。
――落ち着いてなかったの?
――そうかもしれない。今、ことばにして気付いた。
――慌てていたの?
――ちょっと違うけど。なんだろう……不安だったのかな。でも、なんの不安だろう。怖かった? 怖かったのかな。なにに?
――自分でもわからないのね。
――うん。いつもわからない。死んでもわかる気がしないよ。
――わかるのは、いつも落ち着かないってことね。
――うん。……アルネと喋ってるときは、少し落ち着く、かな。
――不安とも恐れとも言えないもの。それを一人で抱えているから、苦しくなるのね。
――そうだね。一人で過ごす方が多いから。
――私のことは、いつでも呼んでいいのに。
――そう? でも……。
――お茶会じゃなくても、私たちは会えるわ。君が望んでくれれば。
――ぼくが望めば、そばにいてくれる?
――うん。
――ありがとう。……ぼくは、苦しくなるといっぱいいっぱいになるからな。
――だから、忘れないで。私のこと。
――なるべく。……この白湯、おいしいね。
――いつもの白湯じゃないの?
――今朝は、とびきりおいしいよ。
温かいものは、ぼくを癒してくれる。あたたかい人も。一人冷えたら、素直に温まればいいのに。それができないんだから、バカだなぼくは。だから、せめて忘れないようにしよう。ぼくは、丁度よくぬるくなった白湯をすすった。
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