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南極に、メープルシロップを(今朝は、メープルホットミルク)

12/2。

5:27起床。

天気は晴れ。


――寒い。

――おはよう、アルネ。

アルネが体をぶるぶる震わせて、自分を抱きしめるように現れた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――今朝は、一段と冷えるね。

――寒い寒い寒い。

――それどころじゃないみたいだね。……今朝は何がいい?

――ホットミルク。

――はいはい。

ぼくはミルクパンに牛乳を注ぎながら、「アルネはどこにいたんだろう」と考えていた。こんなに、凍えそうになって……。


牛乳が沸騰しないように見守っていると、ふいにあることを思い付いた。アルネに気付かれないように、それもそっと注いでみる。

――はい、どうぞ。

――……。

――どうしたの?

――いつもと違う匂いがする。

アルネは、ほんの少し色付いた牛乳に鼻を寄せた。

――ふふ、何だと思う?

――メープルシロップ?

――ご名答。

ぼくもカップに鼻を寄せて、その匂いを確かめる。そして、口を付けて注意深くすすった。


ほのかな甘みが足された牛乳は、いつもと違う幸せを舌に運んでくれる。

――メープルシロップなんてあったの?

――パートナーの最近のお気に入りなんだ。コーヒーにメープルシロップを入れるのがさ。今朝は、牛乳に入れてみたよ。

――おいしい。

ちょっと特別な牛乳を、アルネは夢中になってすすっている。お気に召したようで何より。


それに、アルネの体の震えも、だいぶ治まったみたいだ。

――ずいぶん寒いところにいたんだね。

――え?

――すごく寒がっていたからさ。

アルネは、そのことについてぼんやり考えているみたいだった。あんなに「寒い寒い」といっていたのに、それを忘れてしまったみたいに。

――南極。

アルネが、ふいに口を開いた。

――南極にいたの。

冗談でも何でもなく、アルネは自分の身に起こったことをそのままいっているようだった。

――すごく寒かった。

――そりゃ、すごく寒い場所だからね。

――信じるの?

――信じるよ。

ぼくは、最後の一口をすすった。

――アルネは、ウソつきじゃないからね。……ぼくと違って。

アルネは、それについて何もいわず、同じく最後の一口を飲み込んだ。

――おかわりほしい。

――はいはい。

――それと、

――?

――南極に行った話、聞きたい?

――……聞かせてほしいな。

ぼくは、南極帰りのアルネのために、さっきより多めにメープルシロップを注いだ。





「僕だけが、鳴いている」


これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。


連載中。


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