しんどい日の翌日。(今朝は、ホットコーヒーとまんじゅう)
――昼から雨なんだ……。
――雨は嫌い?
――うわ、びっくりした。
アルネが、横からひょっこり顔を出した。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――そういうわけじゃないよ。ただ、昨日はすごくだるくて。なにもできなかったから。天気が悪くなるせいだったのかな。
――昨日……昨日は晴れてたのに。君は、ずいぶん感じ取るのが早いのね。
――そういう体質だからね。うれしくないけど。
――じゃあ、払拭するために、何か飲みましょう。
――とりあえず、何か飲みたいんだね。……何がいい?
――コーヒーがいい。
――はいはい。
コーヒーミルなど、もろもろの道具を用意する。すっかり慣れてしまったけど、準備から淹れ終わった後の手入れまで、どこかぼくを安心させるものがある。単純作業が好きなのかもしれない。
――……。
――……。
――あんまり見られると、恥ずかしいんだけど。
――今朝は、紙じゃないのね。
――紙……。ペーパードリップ? うん。これはネルだよ。布で濾すんだ。
――お気に入り?
――お気に入り。
――はい、どうぞ。
――……。
――これ、どうしたの?
――まんじゅう? ああ。買っておいたんだ。この前、コーヒーと一緒に食べたらおいしかったから。
――……おいしい。
――よかった。
――洋菓子じゃなくても合うのね。
――ね。
ぼくは、コーヒーをすすりながら、もう片方の手でメモした。お湯の温度とか、味の感想とか。もう少し、苦味があってもいいかな……。
――楽しそうね。
――そう見える?
――楽しいんじゃないの?
――楽しいよ。でも、楽しいのに、楽しく見えないときがあるみたいだから。
――君は、時々隠すから。顔に出やすいのに。
――矛盾してるなあ。
――私といるときは、何も気にしなくていいのに。
――んん……。調子を崩しているのは、隠したいけど。
――いいわよ。隠してもわかるから。
――そういうものかな。
――誰の前でも、とは言ってないわ。私の前では。
――それは、ありがたいね。
昨日ぼくに圧しかかっていただるさや辛さは、少しだけ軽くなっていた。今日は、昨日より多くのことができるのかもしれない。雨が降ったら、またしんどくなるかもしれないけど。
――昼になったら、またコーヒー淹れようかな。
――今度は、紙で淹れたのも飲みたい。
――あれ。アルネ、飲んでくれるの。
――飲みたい。
――じゃあ、淹れ方を見直しておこうかな。
うん。今日はきっと、大丈夫。言い聞かせることで、辛くなることも、楽になることもある。今日は、きっと大丈夫。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。