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押し寄せる、不安のような何か。

いつもの喫茶店に、いつもの店員さんがいなかった。めずらしいことじゃない。土日祝にはよくあること。でも、昨日は平日だったので。たぶんパートの店員さんが、注文を取りに来る。なんだか、違う店に来たみたいだ。


ぼくは、いつも通りコーヒーを注文した。パートさんは、ぼくがミルクと砂糖が必要ないことを知らない。(ぼくの方も、なにも言わなかった。少しでも常連ぶるのは、なんとなく嫌だった。)なので、砂糖とミルクが付いてくる。スジャータのフレッシュミルクの蓋には、〇月〇日の誕生日花およびその花言葉が書かれていた。花言葉が好きなぼくはメモした。それを元に短い詩を作った。偶然の産物もいいもの。


ところで、いつもの店員さんは、常連さんが数日来なくなると、とても心配する。のを、以前別の常連さんと話していた。ぼくは、「まあ、そんなこともあるだろう」くらいに思っていたけど、その気持ちがわかった気がした。年配のご婦人なので、余計に。(あちらからすれば、余計なお世話だと思うけど。)そんなぼくは、次も何食わぬ顔で来店するんだろう。


その後、中海沿いの公園に立ち寄った。梨木香歩の『水辺にて』を読んでいたので、水辺に行きたくなったのだった。

黙々読んでいると、少し離れたところで、老夫婦が中海を眺めながらなにか話していた。時々、その断片が聞こえてくる。「あそこのラーメン屋……たしか、あそこに……」ああ、あそこか。とぼくも思う。だいぶ離れているけど、対岸にラーメン屋があるのだった。入ったことはないけど、近くまで来たことはある。あの辺りは、散歩でもよく行くから……と、自分も会話に参加している気分になる。「ここは埋め立てで……」埋め立て。埋め立てることでできた公園。どこかから選挙カーのうるさい声が聞こえる。日差しが強くなり、目まいがする。ぼくは、そこで読書を切り上げた。


前日の深夜は、コーヒー豆の焙煎をした。ので、少し昼寝をしようと思った。けれど、なかなか寝付けない。夜じゃないので、それでもよかったけど。ぼくの中で、なにかがざわついていた。天候が不安定なせいだろうか。でも、精神的な落ち込みじゃない。これは、なんだろう。結局ぼくは、また散歩を再開した。体に上手く力が入らない。どこへ行ってもいいのに、どこへも行けない。正体の知れないなにかを振り払うように、ぼくは歩いていた。

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