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甘いのも甘くないのも、(今朝は、ミルクティー)

――ポットの紅茶って、難しいんだ。

――難しい?

――あれ、大体2杯分入ってるでしょ? だから、1杯目の配分を間違えると、2杯目は溢れそうになっちゃって。

――ふうん。

――興味無さそうだね。

――私、ティーバッグのしか飲んだことないもの。

――うちには、ポットがないからね。というか、ティーバッグしかない。

――……。

――飲んでみたい?

――ううん。1杯で充分だもの。

――そっか。

ティーバッグの紐をすっと引っ張って、カップの中を一周させてから、アルネは取り除いた。そして、ほんの少しだけのミルク。琥珀色と白色が混ざり合うのを、優しい笑顔が見守る。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――紅茶なんて、めずらしいね。

――まだあったの、忘れてて。……あ、大丈夫だよ。賞味期限とか、そういうのは。

――ねえ、ねえ。

――何?

――君は、砂糖もミルクも入れて飲むの?

――うん。コーヒーもだね。アルネはミルクは入れるけど、砂糖は入れないね。

――ストレートより、ミルクが好きだから。

――でも、砂糖はいらないんだ。アルネは大人だね。

――甘くないのが、苦手じゃないだけだよ。

――うらやましいな。ぼくも、ミルク……は入れたいけど、砂糖なしでも飲めるようになりたいな。でも、甘くしないと飲めないな。昔からだけど。なんだか、渋くって。

――でも、好きなんでしょう? 甘いミルクティーが。

――うん。

――私は、甘くないのが好き。君は、甘いのが好き。それだけ。

――アルネが、甘くないのが好きでよかったな。上手く言えないんだけど、嬉しいんだよ。

――自分は飲めないのに?

――うん。すごく嬉しい。

――乾杯する?

――乾杯? いいけど……もうほとんどないね。

――2杯目、飲もうよ。

――いいけど、ポットじゃないからすぐ飲めないよ。もう一度お湯から。

――もう一度、最初から。

ぼくは、ケトルに水を注いだ。さっきと同じように火にかけて、新しいティーバッグを用意して、牛乳は人肌に温めて。面倒で、時間がかかるけど、それがとても好きだったりする。

――はい、どうぞ。

――……。

――何?

――2杯目って感じじゃないね。

――新しく淹れたからね。

――じゃあ、乾杯。……何に乾杯?

――甘いのも甘くないのも、どちらも幸あれ。

――できれば、飲めるようになりますように。

新しい「2杯目」を、ぼくらは厳かに、肘より上に掲げた。

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