マガジンのカバー画像

目目、耳耳

168
感想文。
運営しているクリエイター

2021年10月の記事一覧

あなたの名前を、(よいひかり/三角みづ紀)

あなたの名前を、(よいひかり/三角みづ紀)

「お元気ですか」

「元気ですよ」

「そちらの街は、どうですか」

「すてきですよ。あなたの街と同じくらい」

「たとえば、スープを作るとき。

じゃがいもを、にんじんを、玉ねぎを、あとベーコンを切って。しめじは、もともと切ってあるのを使って。出来上がったスープは、コンソメと秋の匂い。

あなたにも、届いているといい。」

「たとえば、インクを変えるとき。

新しいインクを手に入れた。色はもちろ

もっとみる
少年少女は「解剖」する(レストー夫人/三島芳治)

少年少女は「解剖」する(レストー夫人/三島芳治)

学年に一人はいる、どこか謎めいた美少女。に、出会ったことは終ぞありませんでした。ぼくの場合。(いたかもしれないけど、周りに関心がなさすぎてわからなかった。)

あれは、フィクションだけなんだろうか。もし、実在するとしても。周りをふり回す力があるとしても。それは、本人のあずかり知らぬところで。周り、もしくは本人が考えている以上に。彼女は。

『レストー夫人』は、演劇の題目。もしくは、漫画のタイトル。

もっとみる

。。。(Q/Light Dance/幽栖)

1.Q - 女王蜂(2017年)記憶から迫り上がるものがある。それも、記憶には違いない。けれど、化石になっていたもの。二度と思い出したくないもの。それがなくては、ぼくはぼくにはなれなかったけど。同時に、二度と経験したくないもの。その日の気分、そんなもので叱責されたこと。ぼくがぼくであるだけで、気味悪がられたこと。自分で自分をころそうとしたこと。全て、石になって頭の中を転げ落ちる。あのころ。あのころ

もっとみる
「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「世界はきっと僕の味方じゃないから」

世界は味方じゃない。味方してくれない。世界は優しくないから。でも、「じゃない」で句読点を打つのではなく、「から」と続き、その先のことばを予感させる。ぼくはそれを、とても優しいと思った。

SNSには、善意がある。わかりやすい悪意もある。本人は善意と思っていても、他人に押し付けることで悪意に変質するものもある(本人はそれが善意だと信じたまま)。なにを言ってもい

もっとみる