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俳優として 前編

俳優としてガッツリ演劇を公演した一番近況はこのEATIの企画(といっても現在2024年なので2年前)
まさかゴリゴリの一人芝居をやることになるとは思ってもみなかった。
演劇をやってて一番難しい役だった。難しいだけでなくいろんな事が起こり、やっている時は苦しさしかなく、終わった時は袖にはけて膝から崩れて安堵からか達成感からかわからんが涙が出てきたのは初めての経験だった。そんな体験をまとめて前編、後編とに書きました。




1日目「出会い」

飛行機で福岡へ行きそこから更に柳川まで…佐賀県のすぐ近くだ、ここ。
まずはこのEATIの企画の日本の理事的存在である百瀬さん演出の韓国の俳優による「オセロー」を観劇。彼らと入れ違いにおれらがここから2週間の滞在制作にはいる。
そもそもこのEATI(East Asia Theater Interaction)は毎年日本、台湾、韓国の俳優、演出家を集めて、場所も3ヶ国順番に滞在制作をしていく国際交流。今回は日本開催。

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久しぶりの観劇を終えて、身体と精神のコントロールを考えさせられた。
ある一人の俳優に釘付けになり終盤その人のシーンは目を離したくなかったから後ろの字幕は一切みずその人だけを凝視した。なんていうんだろう…圧倒的な説得力があった。

観劇後打ち上げに参加できたので韓国の俳優にいろいろ聞く。誰もが笑顔でコチラの声に真剣に耳を傾ける。熱を感じた。

今回おれは韓国の演出家と台湾の俳優と作る。
次の日から本格的にスタート。
これからとんでもなくしんどい日々が始まる事はまだこの時は知らない。

2日目「自分史上最高難度」


この日より本格的にクリエーションが始まった。
日本人演出家チーム、台湾人演出家チーム、韓国人演出家チームに別れて共通のテーマ芥川竜之介の「藪の中」をテーマに三つの作品を作る。

おれは韓国の演出家テウ氏のチームで台湾の俳優と一緒の予定だが、彼女はコロナ陽性になり今回これるかわからん状態。

早速テウ氏の書いてきた今回の世界観を読むが、わ、わからん。頭に入ってこねぇ。
未来の話しというのはわかる…だが…形而上学的思考?フォーリンダウン?…わからん単語が各所に。

そこから翻訳家なしでのディスカッション。スマホ、PCの翻訳機能を使い時間をかけてディスカッションしていく。二人だとどんどん煮詰まる。

助けて~~!!

そこへ韓国演出家チームの演出助手をしてくれる福岡在住の演出家リュウキ合流(各チームにそれぞれ演出助手がつく)
彼が間に入ることによりテウ氏の考えている意図を汲み取って砕いて話してくれたことにより、なんとなくテウ氏の世界観が見えてきた。
おそらく台湾の俳優はこれないだろうから、この三人で作品を作りあげていくんだろう。

しかし「藪の中」から人口激減によりAIの方が人類より多数を占める未来の設定へとばすとは。

ざっくりのあらすじとしてはある殺人事件が起こってその犯人を捕まえた。
その人間の中には六つのAIが憑依している(AIが人間というものに、より興味を持ち複数のAIが人類に憑依している状態)
どの意識のもと、どういう経緯で殺人が犯されたのか?それぞれのAIに聞き取っていき殺人事件を検証していき真実を確かめる。

まさかの何役も演じわける一人芝居。

おれが演劇をやっていて最高難度の役だろう、これ。ヤバいなぁ。

始まったばかりなのにもう怖さしかない。

この日は世界観の共有と次の日まで六つのAIと一人の人間、計七つの存在はどういう存在なのか?をそれぞれ考えてくるという課題を設けて終わった。


3日目「未知の作り方」


自分たち韓国演出チームは今回舞台でモニターを多様するため、そのモニターチェックから始まった。そこからクリエーションへ。
前の日の課題である七つの存在はどういう存在なのか?(どういう役であるかとも言える)をそれぞれ考えて来たものを話す。
おれは前の晩考えて朝方実際動いてやってみた。これは言葉で説明するより動いて見せた方が早いと思って、早速七つ演じてみせた。

テウ、リュウキ爆笑

いや〜失敗したなぁ。これはないなぁ~と思ってディスカッションを始めるとつかえる部分がけっこうあり、お、意外。

そこから三人で七つの存在の設定を深め被害者との関係性、人間ではなくAIの視点を想像して物語を作っていく作業を延々と。七つの大罪も大きくかかっていていろんな要素を三人で考える。

戯曲の構成を演出家と俳優一緒になって作るという経験は始めてだったので興味深かった。


4日目「七つの設定決定」


ひたすら六つのAIと一人の人間、計七つの設定を考える。頭煮詰まり、沸騰しまくり。アイデア出しては生かしたり、やめたりの繰り返し。七つの大まかな設定をなんとかこの日に終える事が出来たので、これから演出のテウ氏は台本を書き始めるようだ。

この日コロナで一度だけ陽性が出て(その次に検査したら陰性)自国に待機中の台湾の俳優とオンラインで連絡をとった。

※2022年はコロナ禍のため出入国がとても厳戒であり、特に台湾という国はとても慎重な姿勢だったように感じる

当時の情勢

どうしても作品に関わりたい!という強い意思を感じて、作っている世界観にもとても興味しんしんで非常に積極的だった。現在体調は良好らしく四日後のPCRで陰性だったら来日して一緒にやるという判断に。

個人的には一緒にやりたいのは勿論だけど、そこに期待してガッカリするのは嫌なので一人芝居のつもりでいこうと思ってる。まぁどちみちほぼ一人芝居だけれども。

この日は自分達の韓国チームが食事当番。
食事は基本朝昼晩と全チーム集まって一緒に食べており各チームが持ち回りで食事当番をするという形。演出のテウ氏が昼は韓国風チャーハン、晩はパスタを率先して作ったんだけど……もうこだわりがすげぇ。味は確かに美味しいが時間かけてんなぁ。

料理作る姿勢とクリエーションのアプローチが似ている。物事は繋がってるんだなぁ、やはり。


5日目「それぞれ孤独との戦い」


演出のテウ氏がこの日はひたすら戯曲を書く。おれは前の日に三人で考えた七つの存在をどういう表現で演じるのかを一人で模索。
今回映像との会話はあるが、一人芝居の部分が強い。相当強い。まぁ台湾の俳優がこれるかわからんだけにそうなるとは予想していたけど。

一人孤独に延々と稽古していると夕方位に演出助手のリュウキが韓国語を日本語に訳した戯曲をチラホラ持ってくる。

ひたすら覚える、覚える、覚える……覚えてる内にも次々にリュウキが来て戯曲を置いていく。おいおい何ページあるんだよ。容量超えてます、おれ。

ひたすら籠もって稽古、稽古。

隣の稽古場から台湾演出家チームの笑い声が聞こえてきて羨ましい気持ちにもなるがやるしかないと自分を奮い立たせてひたすら孤独な戦いの一日。


6日目「戯曲完成」


朝方戯曲が完成して改めて全ページ渡される。
マジかよ……これ……なんとなくは感じていたが40分位のゴリゴリの一人芝居。

三人集まりとりあえずおれが全部声に発して微妙なニュアンスをなおしていく。

そんで昼から舞台で使うもの購入へ。

おれは二人にお願いして稽古場に残り戯曲を覚える作業へ。延々と一人でまた孤独な戦い。

おれは40分位の一人芝居なんてやったことない。ましてや七つの存在(役)を演じわけなければならないという、難易度高すぎ。

隣の稽古場から日本演出家チームの楽しそうな声が聞こえてくるが、泣きたくなる気持ちを抑えてこの日もひたすら一人で戯曲と向き合う。

7日目「コロナ」


朝リュウキがおれのところにきて

「テウさんがコロナっぽいです」

と言われた時は頭がゴチャついた。え、マジ?大丈夫?自分は?この企画は?諸々どうすんの?

医者にもいきちゃんと調べたところ、やはり演出家テウ氏はコロナ陽性。他の人も全員即調べたら陰性だったのは少しだけ安心した。

企画の代表である百瀬さんがきて今回の企画の彼なりの意図をみんなに伝える。

こういう状況でも最後の公演までやり抜く事。
演劇を通しての国際交流をいつまでも止めてはいけない。
かといってコロナを無視するのではなく予防はしつつそこと向き合いつつ進んでいく。
公演に来てくれるお客さんにもこういう状況を全て隠さず伝える予定であり、その上で来るかこないかは判断して貰えればいい。

と淡々と話した。

朝リュウキに聞いた直後は葛藤したが、その話しを聞いて覚悟を決めた。

といっても演出家がいなくなった。台湾の俳優も来るかわからない。韓国演出家チームはおれとリュウキ二人になった。

リュウキと相談して彼がテウ氏の意図を汲み取り演出することに。

幸いな事に戯曲は前日完成した。今思えばテウ氏は無理して戯曲を完成させたのかもしれない。

次の日がそれぞれのチームの中間発表なのでそこに向けて急ピッチでリュウキと二人で作っていく。今まで一人で戦ってる時間が長かったからか二人で作るっていうのはとても充実した時間だった。

しかし難しい。今まで俳優として関わった作品の中でダントツで一番だわ。


8日目「中間発表」


この日は中間発表という形で各チームのここまで作ってきたものを見せあい意見交換していく日。

日本演出家チームが始めで、演出家の山田さんがまだほとんど出来てないので公開稽古みたいな形でやりたいと。山田さんが試してみたい事を韓国と台湾の俳優で延々とやる。
身体と意識を乖離させたり、全く別のところにもっていったりと様々な形で俳優に要求していた。
何より人がちゃんと揃ってチームとして強固になっているのが羨ましかった。

次は台湾演出家チーム。
このチームが作ってきたものはポップにはみえたが、個人的にはどうやっても他者の全てを把握することは不可能である、みたいな印象を受けた。
日本と韓国の俳優二人のパワーバランスがとても良く、見ていて楽しくもあり、悲しくもなった。
台湾演出家チームは演出家と演出助手と俳優二人の距離が一番近い気がした。全員女性っていうのも関係しているのかな。
チームになっているのがやはり羨ましい。

そして我らが韓国チーム。おれの40分の一人芝居。

圧倒的に戯曲におれの力量が追いついていないのを痛感させられるには充分の時間だった。

何よりこの場にいるのは演出の立ち位置にいるリュウキだけという。人が揃っているというのはとても尊いことなんだなぁと他のチームをみて実感。

そんな事を感じているとまさかの事が起こる。

我ら韓国演出家チームの台湾の俳優が来たのでリュウキが迎えにいくと言う。急な展開。

中間発表も終え、チームも一人増えるので少しだけ嬉しくなりこの日の夜は楽しんで飲んだ。
そして怒涛の後半の日々が始まっていく。



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