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「舞のみにけ〜しょん」レポート

宮崎の地に足を踏み入れたのはいつぶりだろう。
もう何度目だ寺越を追いかけていくのは。
一体私のレポートは誰に読まれているのだろう‥


あえて言葉にするが私はアイツのファンではない。強いていうなら樋口さんのファンではある。
どちらにせよアイツを応援やらの類いは毛頭なく、ただ気になる、それだけ。
気になるだけで様々な土地に行き記事まで書いている私は可笑しくなっているのだろうか?

ゴン(ゴン田中)にこれを伝えた時に

「わかりますよ、ケイさん!僕もなんかなぁ〜SNSみてると行きたくなっちゃうんすよね。ちょっと待ってください(スケジュールみるゴン)あ、いける!僕も宮崎いきます!」

ゴンは次の日到着する。
硝子(高永硝子)に同様に伝えたら

「ケイはよりわかりたいんじゃない。昔からそういうところあるしね。寺越さんの作るものって抽象的でコチラ側の想像に委ねる部分が強いからね。まぁそれってファンっていうのかもねぇ〜(笑」

硝子はわかってない。
確かにわかりたいという部分はあるのかも知れない。それが気になるということかもしれない。
ただ決してアイツのファンではない。ファンというものは対象者に熱狂するもの。私はアイツに対して熱狂とは遠いところにいる。

考えてると目的地につくのはあっという間だ。

ここが宮崎県新富町か。
どうやら駅員が見当たらないので無人駅のようだ。13時からBobuuun(寺越と樋口のユニット)による「舞のみにけ〜しょん」が水沼神社で行われるようなのでGoogleマップで調べて向かう。

時間もあるので歩いて向かう。東京というビルばかりのところにいると畑や田園など緑豊かなこういう場所は心が落ち着いていくのを感じる。

マップが示す場所が近づいてくるに連れて高鳴っていく鼓動、水沼神社の鳥居をくぐると太鼓の音が聞こえてくる。

しかし下手な太鼓だ。
リズムが一定でなくバチの扱いがなってない。

やっぱりお前だったのか…

寺越が太鼓を叩きながら男性と樋口さんが踊っている。まだ13時にはなっていないはずだが、

「え〜!!中谷さんきてくれたんですか?」

寺越が太鼓を叩きながら驚く。樋口さんと男性は踊っている。もう始まってるのか?と聞くと

「いやいやまだです。いや、始まってるっちゃ始まってるかな(笑)小田木工所の小田さんがこの時間だけ来れるってきてくれたから、とりあえずプレみたいな形でやってます」

小田さんはどうやら合間をぬってわざわざ顔を出してくれたらしい。コチラに頭を下げる小田さん。

「中谷さん!もうすぐ正式に始めるんで、ビールとかジュースこっちに用意してあるんで飲んでてください!」

みると屋根があるアウトドアグッズの下に長テーブルがあり、そこに飲み物が用意されていた。しかしこのアウトドアグッズや長テーブルはどうしたのだろう?私は喉も渇いていたので飲み物を頂く。

暫く踊っていると小田さんは時間がきたのか帰っていく。どこかスッキリした顔にもみえた。
寺越が太鼓を置いて近づいてきた。

「いや〜まさか中谷さんきてくれるなんて!しかしどんだけ来るか未知数ですわ。これは誰も来なかったら中谷さんのオンステージですね(笑」

その状況だけは絶対に勘弁してもらいたく、顔も知らない新富町の方々に是非来て欲しいと心から祈る。

「わざわざここまでありがとうございます。毎回レポートも書いてくれて本当にありがとうございます。私あのレポート楽しみなんですよ。」

始めてあのレポート読んでる人に出会った気がした。こそばゆい感触が身体を駆け巡る。
樋口さん、あなたの気遣いのほんの少しでもアイツに分けて上げてほしいもんですよ。

再び太鼓を叩き始める寺越。
すると呼び寄せられたように少しずつ人が集ってきた。

「ありがとうございます。よかったらそこの飲み物気軽に飲んでください」

樋口さんが来てくれた人に飲み物を勧めながら話す中、寺越は太鼓を叩き続けている。子供やら大人やら10人近くはいるだろうか。
暫くすると寺越は太鼓を置いて喋りだした。

「皆さんきてくれてありがとうございます。じゃあ早速踊っちゃいますか〜!」

寺越の掛け声とは裏腹に周りの足取りは重い。

「まぁやってみましょう!なんも難しくないですから。じゃあ皆さん輪になりましょう〜」

強引なやつだ。だが少しずつ動き始めてきた。
動かない人に樋口さんが優しく語りかけていた。こういうところだ寺越よ。

「おれここにきてピーマンの収穫手伝わせてもらったんすよ。」

コイツは一体何を言い始めてるのだ。

「ピーマンの収穫って、ピーマン取って、あのリアカーみたいなやつあるじゃないすか。あそこにいれて、また取って、いれて、取って、いれて、そんでこのリアカー移動させて、また取って、いれて〜みたいな。なんかこの動きって踊りになるんじゃないかなぁと思ったんすよね。」

寺越は声を出しながら身体も動かして説明。
その動きがどんどん大きくなり流れになっていく。

「ピーマン取って〜いれて〜取って〜いれて〜取って〜いれて、ハイ、リアカー動かします。ね!踊りっしょ。これをより大きく動かして〜取って〜いれて〜取って〜いれて〜、ハイ!みんなも一緒にやってみましょう〜!」

戸惑いながらも動かし始める人達。中には早速オリジナルを付け始める強者もいた。この人は来た段階で酔っ払っていた。しかし酔っぱらってしまった方が恥じらいなどがなくなりやりやすいのかもしれない。かくいう私もお酒を飲んだため気持ちよくなりながら身体を動かしていたのだった。
「舞のみにけ〜しょん」とはこういう意味合いも含んでいたのかもしれない。

何度か繰り返した後に

「いいですね〜めちゃくちゃいいです!こういう感じで日常の動きをあと2つ位くっつけてオリジナル盆踊りをみんなで作ろうと思ってます。日常の動きでパッと浮かぶのはどういう動きがあります?」

考えてるが言葉が出てこない周りを見て寺越は

「あ、じゃあ〜おねぇさん!どういう仕事してますか?農業ですか。何を育ててますか?あ、米!じゃあ田植えとかいっちゃいますか。田植えどういう感じですか?」

「え〜こういう感じですかね」と照れながら稲を田んぼに植える動作をする女性。

「いいっすね!それいっちゃいましょう。植えて〜、あ、パレットから掴んでからのが面白そうっすね。掴んで〜植えて〜掴んで〜あ、次は方向変えてみましょうか!掴んで〜植えて〜また方向変えて、掴んで、あ!最後は思いっきり植えますか!よし、やってみましょう」

「掴んで〜植えて〜掴んで〜逆に植えて〜掴んで〜逆に植えて〜掴んで〜思いっきりドン!いいっすね〜じゃあ繰り返しいきましょう〜掴んで〜」

また田植え踊りを繰り返す。私も寺越をみながら身体に馴染ませていく。

「うんうん!だいぶいいですね〜。じゃあ繰り返しいきましょう!ピーマンからの田植えいきますよ。さっきの覚えてますか?いきますよ~」

ピーマン収穫の踊りから田植えの踊りへ。
寺越はずっと喋りながら身体を動かしている。

「取って〜いれて〜ハイ!動かします〜からの掴んで〜植えて〜」

周りも私もこのよくわからない踊りが徐々に身体に馴染んでいき一体感が出てき始めた。

「いいっすねぇ〜。じゃあもう一つだけ付け加えましょう〜!誰か日常の動き下さい〜!」

ある女性が「料理とかでもいいですか?」と少し息をきらしながらいうと

「お〜いいっすね!じゃあ昨日の飯でいきましょうか?ちなみに昨日は」

「カレーですね。」

「お〜食いてぇ〜!どんな感じですか?」

「そうですね。鍋混ぜて‥ご飯よそって‥とか‥」

「いいじゃないですか!じゃあ〜鍋混ぜましょう!うん〜大きな鍋イメージして混ぜましょう!混ぜて〜混ぜて〜あ!身体も混ぜましょう!」

身体をクネクネしながら大きく両手で混ぜ始める寺越。周りも少し困惑気味。その時目にうつったのは樋口さんの存在。彼女の身体の動きの方がわかりやすくキレイだ。寺越の声は聞きつつ見るのは樋口さんの方だなと確信。

「混ぜて〜混ぜて〜よそっちゃおう〜あ、よそっちゃうのはもうスコップみたいに地面から天へ思いっきりいきましょう!ハイ!いきますよ〜混ぜて〜混ぜて〜よ〜そっちゃう〜あ、ジャンプしちゃいまか〜混ぜて〜」

これも暫く繰り返し

「じゃあこれでできましたね。じゃあピーマンから全部通していっちゃいますか〜」

私はこの時点で少し疲れてきていた。どうやら周りもそのようだ。寺越は気づいていない。

「取って〜いれて〜(3回)ハイ、動かします〜からの掴んで〜植えて〜(3回)思いっきりドン!からの混ぜて〜混ぜて〜ハイ!よそっちゃう〜」

これを繰り返す。身体には馴染んできたが私を含めて多くの人が疲れてきているようだ。勿論寺越は気づいていない。延々とやり続ける。

「植えて〜あ、もうどんどんオリジナルいれちゃっていいですからねぇ〜思いっきりドン〜からの〜」

ランナーズハイしかり「舞のみにけ〜しょん」ズハイとでもいうのか、どこか疲れを通り越した心地よさを感じ始めた時、寺越が輪から外れて太鼓のところへ行き叩き、PCも操作して音も流れ始める。

何なんだこの空間は‥

しかし太鼓の音というのはいくら下手でも心地よく感じる。神社から借りたちゃんとした太鼓だからなのもあるだろう。
私は汗をかきながら身体を動かし続けたが流石に体力の限界。輪から離脱して座りこむ。
何人かは私と同様に疲れたようで輪から外れて見守っている。
輪の中の樋口さんをみていると彼女の身体はどんどん変わっていき、原型がわからない程になっていたが身体の流れが流麗だ。長い黒髪が意思を持つように自由に揺れ動くのも彼女の存在が一際大きくみえる要因だろう。

輪の中で踊っている時は意識できなかったが、スピーカーから流れてくる音は、これはおそらく新富町で日常飛び交っている自衛隊の飛行機の音だろう。

しかし凄い音だ。

新富町の人はこの音を日常当たり前のように聞いているんだろう。この音に対して敏感に反応してるのは周りを見渡しても私だけだった。

太鼓を叩きながら寺越の身体が躍動していくと同時に音が変化していく。これはオペラの魔王。
それも編集して2倍速にしたり0.5倍速にして物凄く歪んだ魔王になっている。

ただこの時点で輪に残っているものはほとんどおらず樋口さんも談笑していた。歪んだ魔王と共に寺越の太鼓が虚しく響く。

太鼓を置いた寺越がビールを飲みながら来てくれた人と話している。誰もが楽しそうにしていたが恐らく寺越と樋口さんの狙いは別のところにあったような気がしてならない。

次の回は16時。
場所はこの水沼神社ではなく市役所近くの公園だという。とりあえず私は先にその場所へ移動しとくことに。歩きながら先ほどの最後の歪んだ魔王の意味を考える。彼らの狙いは何だったのか?私は考え過ぎなのだろうか。

公園近くの寺越のSNSでよく出てきたKiitosというカフェにはいると「舞のみにけ〜しょん」のチラシが、私の視線に気づいた店員さんが

「あ、それ!今日このあと16時から隣の公園でやるんですよ。東京からきた変な人達で〜私もよくわからないんですけど面白そうですよ!よかったら是非!」

先ほど行ってきたと言おうと思ったが店員さんの勢いに圧倒されて空返事をしてしまった。実際私の身体は疲れていた。東京からの移動からまさかの汗かいてまで身体を動かす始末。少しでもゆっくりしたい。


あ、危ない、眠るところだった。時計をみると15時ちょっと過ぎ。重い身体を起こして公園へ向かう。市役所のほぼ隣にあるこの公園はサッカーコート2面位の広さはあるのでは?と思わせる程に広い。
既に寺越と樋口さんはスタンバイして身体を動かしていてビニールシートが端の方に置いてあった。

「あ!中谷さん〜!」

寺越に見つかってしまった。もう少し遠くでみていたかったのだが、しかたない。近寄っていく。

「どこ消えたんですか?いつの間にかいないから帰っちゃったのかなぁと思いましたよ〜」

「こっちもきてくれるなんて本当にありがとうございます。よかったらあのビニールシートのところで座ってて下さい」

樋口さんの言葉は本当に有り難かった。それに比べてアイツは…帰っちゃったって一体どこに帰るというのだ。

ザワザワと人の声が聞こえてくる。後ろを振り返ると公園を見下ろすような形で多くのスーツ姿の人達が見に来てる。

「町長〜!!一緒にやりましょうよ〜!」

うん?町長?新富町長か。ということは市役所の人達が見に来ているのか。

「そんなとこにいないで〜こっちきて一緒にやりましょうよ〜」

手でやらないと否定しながら笑っている新富町長。流石にスーツの人達は一緒にやらずチラッと見て帰っていった。それはそうだろうと思いながらも市役所の人達が見に来るのはたいしたもんだと感心もしていた。それから次々に人が来始めた。先ほどのKiitosの店員さんなど中には私と一緒で神社とコチラ両方来てる人も。

私はビニールシートの上で見ている事にした。
寺越が太鼓を叩きながらまた輪を作り、ピーマン収穫踊りから、来た人の日常の動きを踊りにして繋ぎ合わせていく。また神社とは違う盆踊りが出来ていく。開けた公園だからなのか来た人達は神社の時より自由な気がする。
寺越と樋口さんが前に訪れたニュージアムという奇妙な美術館をやっている人とその知り合いはその中でも思いっきり自由で楽しそうだった。

場所が違うとこんなに違うものになるのか。

そしてスピーカーから流れる音も少し違っていた。自衛隊の飛行機の音は変わらずだが、歪んだ魔王の歪みが神社より増している。どうやらビニールシートの近くの木の上にスピーカーがあるようなので私は音がより耳にはいる。なぜ更に歪ませたのか?

踊り終わっても飽き足らず遊んでる人達を置いて寺越はビニールシートで飲み始めた。

「中谷さん1日ありがとうございました」

どうやらコイツも疲れているようだ。それもそうか。しかし私は聞いてみたいことがあった。狙いはなんだ?

「無秩序な空間、カオスな空間を最終的には作りたかったんです。」
「新富町にきていろんな人達と話してるとコロナの影響もあって以前やっていた寄り合い、まぁ飲み会ですよね、それがほとんどなくなった。新富町の人ってお酒が好きで寄り合いが多いらしいんですよね。それを寂しそうに話すんですよ。あ〜だったら祭りっぽくしたいなって樋口さんと話して祭りだったら盆踊りだろうと思い即興盆踊りをみんなで作ろうとおもったんすよね。」

都心部とは違い娯楽というものが少ない土地では飲み会だったり集まりが頻繁に行われてそこで交流して団結しているのだろう。

「ここって日中自衛隊の飛行機が飛び交っているじゃないですか?すげぇ身体に響かないですか、あの音。もうみんな慣れてるんですよね。おれたちはすげぇ違和感あるけど(笑)だから飛行機の音から歪んだ音になっていったら、盆踊りしている身体が変質していきカオスな空間が浮かび上がるんじゃないかと思って。」
「まぁあんまりうまくいかなかったですね、カオスな空間は。でもそれはあくまでおれらの狙いなんで全然いいんす。だって今日みた光景はどちらもいい光景だったから」

ビールをグイグイ飲む寺越。
なぜ魔王なのか?公園で音が変わっていたのは?と私は聞いてみた。

「あ〜魔王は直感です。でも魔王を2倍速だったり0.5倍速、もしくはもっと遅くして聞いてみたら身体の中から広がったり縮まったりっていう印象受けて身体に作用するんじゃないかなぁと思って。」
「公園で変えたのは神社と違い広いしめちゃくちゃ開けてるじゃないですか。まぁ神社はちょっと特別ですけど、ここはもっとめちゃくちゃ魔王にしちゃおうって(笑)こうやって音作るの始めてだからめちゃくちゃ時間かかりましたよ。」

相変わらず変なやつだ。
ふと公園の方に目を向けると樋口さん達がよくわからない事をしていたのでそちらを向くように寺越を促す。

「なにやってんだよ樋口さんたち(笑)めちゃくちゃ面白そうじゃん!ちょっとおれ交じってきます」

自分が笑っている事に気づく。
カオスな空間を作りたかったかぁ…自分が参加した神社、公園で、そして今、今日1日のいろんな光景が頭に思い起こされ可笑しくなる。
お前が見たかったものとは違うかもしれないが体験したものとしてはカオスな空間は端々に出来ていたのかもな。
目の前のよくわからない空間をみながら缶ビールのプルタブを空けるとブシューと音が鳴り響いた。


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