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Answer~枯れない愛を探して~ 第一話【全九話】
あらすじ
食品会社の事務として働く木崎春香は、同じ会社で働く先輩の八代拓也に密かに想いを寄せていた。しかし、八代は春香の後輩、天野真希と突然結婚してしまう。結局告白も出来なかった春香は、自暴自棄になる。しかし、ある日八代があまり結婚に乗り気ではなかったことを知り、思わず好きだと八代に思いを伝える。そして、許されることのない関係へと進んでいくのだった。会社の同期の藤山綾子や、ふらっと入ったバーのマスターである落合俊介に関係を止められるが、春香はなかなか八代との関係を辞めることが出来ない。抜け出すことの出来ない沼へと足を踏み入れてしまった春香は、人生の”正解”を見つけ出すことが出来るのだろうか。
【第一話】
人生は選択の連続だ。その選択を一つでも間違えれば、人生は思わぬ方向へと向かう。でも、その選択が正しいのか、間違っているのか誰も教えてはくれない。そもそも、正解なんて誰にも分からないのだから。
木崎春香は右手に引き出物をぶら下げ、ふらふらと歩いていた。こんなにも幸せを感じない結婚式は初めてだった。
「はぁ……」
深々とため息をつく。二次会なんて行ける訳が無かった。しかし、そのまま家に帰る気にもなれなかった。やることがない春香は、ひたすら街を歩き続けた。
この日の為に買った少し高いパンプス。歩き慣れていないからか、気が付けば靴擦れを起こしていた。でも、そんな痛みなんて感じなかった。そんなことは今の春香には、どうでも良かったのだ。結局、引き出物は途中にあった公園のゴミ箱に捨てた。中身は見ていないが、どうせ自分には必要ない。こうしてやっと、春香は帰路に着いた。家に着いた瞬間、そのままベッドへ倒れ込む。
ここにきてぶわっと涙が溢れてきた。
“私が大好きな人“は、今日結婚した。
春香は、食品会社の事務として働いている二十六歳。大学を卒業してすぐ、今の会社に就職した。そこで知り合ったのが八代拓也だった。八代さんは春香の四年先輩で、年齢は三十歳。そして、その八代さんこそ春香の好きな人だ。
「あぁ……好きだったのになぁ……」
春香のそんな独り言は、虚しく部屋の中に響いて消えていく。ベッドに横になりながら、現実逃避するように布団を頭から被った。真っ暗な視界の中でも、思い浮かぶのは八代さんの顔。気を紛らわす為にテレビの電源を入れる。
「ここまで好きにさせといて勝手に結婚するなんて……」
少しは責任取ってほしい。最後のところは口に出せず、心の中で呟く。そもそも春香は八代さんとそういう関係ではない。ただの先輩後輩、よく言えば仲のいい同僚……それ以上でも以下でもない。だから、八代さんが勝手に結婚したとしても、文句は言えないのだ。春香は、八代さんとの数え切れない出来事を思い出してはやるせなくなるだけだった。
ふとスマホを見れば、同期の藤山綾子から大丈夫? とメッセージが入っていた。綾子は、会社の中で一番仲の良い同期だ。入社時の研修で、席が近かったことがきっかけとなり、仲良くなった。休みの日には一緒に出掛けたり、旅行に行ったりする仲でもあった。だから春香が八代さんのことを好きだということも知っており、色々と相談に乗ってもらっていた。二次会に行くのを断った春香を見て、心配して連絡をくれたのだと思う。こんな精神状態で大丈夫なわけがない。でも、大丈夫じゃないなんて言ったら、もっと心配されるから言えない。
「どうするかな……」
とりあえず、春香は大丈夫だよとだけ綾子にメッセージを返して、ベッドに横になった。時計を見ればもう夜はだいぶ更けていた。水を飲もうと立ち上がり冷蔵庫を開ければ、いつか誰から貰ったビールと目が合った。春香はそのまま水ではなく、ビールを手に取り、プシュッと缶を開ける。そのままグビッとビールを飲むと、独特の苦味が口の中に広がる。ビールはあまり好きじゃない。でも今はこの苦味がちょうどいいと感じた。
「うわ、酔ったかも」
そういえば何も食べていなかった。結婚式の時も、何も食べる気にならなかったのを思い出す。空腹の状態でビールを飲んだので、余計に酔いが回った。ビールを一缶空ける頃には春香は完全に酔っ払っていた。
「何やってるんだろう。私……」
空になった缶ビールを片手に涙が止まらない。拭っても拭っても出てくる涙。諦めて無抵抗になる。するとその涙は行き場を失い、テーブルへと落ちる。その涙を見ながら、春香はあの日のことを思い出した。
「八代、結婚するって本当かよ!」
春香が事務所で仕事をしていた背後から突如聞こえてきた言葉に、酷く動揺した。八代さんにそう言っていたのは、八代さんの一つ先輩の森本勝彦だった。森本さんは、八代さんの肩を組み、嬉しそうにしている。春香は振り向かずにはいられなかった。
「八代さん、結婚するんですか?」
「うん。実はそうなんだ」
そう言って、幸せそうにはにかむ八代さん。これまで何回も飲みに行ったり、ランチに行ったりもしていたのに、なぜ結婚すると教えてくれなかったのだろう。せめて付き合っていることをもう少し早く分かっていたら、気持ちも変わっていたかもしれないのにと、少し八代さんを憎んだ。それと同時に自分は仲がいいと思っていただけで、そこまでの関係だったのかと感じて、空しくなった。春香がそんなことを頭で考えている間も、森本さんは八代さんと話を続けていた。
「相手はあの美人の天野さんだってな、しかも子供出来たんだろ? そういうことならもっと早く言えよ!」
森本さんはそう言って、八代さんの肩を思いっきり叩く。その勢いで八代さんは前にフラッとよろける。
「すいません。急で」
八代さんは肩を叩かれながらも、その顔は実に嬉しそうだった。信じられなかった。それが例え事実でも、信じたくはなかった。八代さんの結婚相手は天野真希、春香の二個下の後輩だった。確かに天野さんは、とても美人で仕事も出来た。春香だって、天野さんのことは後輩として好きだった。だから、余計悔しかった。更に天野さんが妊娠しているときたら、もう救いようがない。ボディーブローのようにやってくる情報に耐えられず、春香は事務所を抜け出して、トイレへと駆け込んだ。段々と視界が滲んできて涙が止まらない。
今の涙はあの時の涙に似ている。無抵抗に涙が流れて止まらなかった。
それから気付けば机に突っ伏したまま寝ていた。涙は枯れて、濡れていたテーブルも乾いていた。付けっぱなしのテレビでは、不倫を題材にしたドラマが流れている。今、巷でとても話題になっているドラマだった。
自分の頭の中で少しだけ、”不倫”や”浮気”という言葉がよぎる。もちろん、ダメなことだと分かっている。許されないことだとしても、今の自分の気持ちを素直に伝えているドラマの主人公が、今の春香にとってはとても輝いて見えた。
もしも、今自分が八代さんに好きだと思いを伝えたら、どうなるだろう。八代さんは答えてくれるのだろうか。
「無理だよ……もう……」
こんな馬鹿げたことを考えているのは、ドラマのせいだとそのままテレビを消した。無音になった部屋の中。春香はもう考えることを辞めて、ベッドへ横になった。
自分はこのままどうすればいいのだろう。どこにこの気持ちをぶつければいいのだろう。人生に答えがあるのなら教えてほしい。
「どうしたら、私は幸せになれますか?」
≪続く≫
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