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ぶっちゃけ妊活日記 vol.4 / 不妊治療専門ラッコクリニック


 旦那LINE : 不妊治療専門ラッコクリニックのHPもあるから、見てみてね!予約お願いしていいかな?

 テレビからハワイアンの優雅な曲やさざ波が聞こえてくる。リズムに合わせて身体を揺らしながら、iPhoneをもう1度見返し、ノートパソコンで恐る恐る「不妊治療専門ラッコクリニック」を検索した。

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 名探偵のように顎に手を当てて、ホームページをチェックした。治療の内容というよりも、どこかにラッコが潜んでいないかくまなく探していた。
… ふむ、どうやらホシ(ラッコ)はいないようだ。一安心して「初めての方はこちら」の項目をクリックした。

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日本産科婦人科学会登録・調査小委員会ホームページより

 クリックすると、すぐに年齢についての記事が目に飛び込んできた。妊娠率は30代後半から厳しくなり、40代からは途端に妊娠しにくい状況だ。こうして数値化されていると、グッと現実を振り返らざるを得ない。わたしは現在37歳。治療を始めるならば今でしょと、林修先生が言う。うぅ、なんだか胃のあたりがキリキリしてきた。

 ザパァーン!

 スッキリ!はワイキキ水族館の特集に移った。
 あぁ、なんだかもう現実逃避したいなぁ〜ハワイ行きたいな〜と思いながら、予約の詳細についてのページを見ながら、旦那さんのことを考えた。
 共働きの夫婦たちはどう乗り越えて来たのだろう。妊活 / 不妊治療から妊娠、出産、育児に向けて2人の共同作業はずっと続いていくものだ。しかし旦那さんは出張三昧。コミュニケーションなど、いざとなった時に互いに遠方に離れている状態だと一抹の不安を抱いてしまう。もちろん、今からない心配をしてもしょうがないのだが、先日から色々なモヤモヤが自然と湧き出てくるのだ。

 ふぅーとため息をついて、予約ページをクリックした。 

初診はこちらの電話へ
65-6565-6565

  覚えやすい電話番号だな、65がいっぱいだ。…65…ラッコ??いや、気のせいか。なんだかいつになくiPhoneを持つ手が緊張している。ドキドキしながら、電話をかけた。


トゥルルル……ガチャッ

「はい、不妊治療専門ラッコクリニックでございます。」
「あの、はじめてお電話します。ホームページを拝見しまして…予約をお願いしたいのですが」
「初診の方ですね。当病院は不妊専門でございますが、治療をご希望でしょうか?」
「は、はい!お願いします」と、少し緊張して答えた。
「では、ご希望の日時はございますか?」
「今週土曜日に空いてる時間帯はありますか?」
「… 土曜ですね … 夕方の16時はいかがでしょうか?」
「はい、お願いします」
「承知いたしました。当院長よりいくつか確認事項がございますので、少々お待ちください」


ガチャ…チャラララ〜♪


 電話越しからの保留音がテレビで流れているハワイ特集と同じようなハワイアンミュージックが流れてくる。なるほど、リラックス効果でこうした曲が病院でも使用されるようになったのか。時代は変わったものだ。

 目線をテレビに戻して待機していると、水族館の館内の大きな水槽にキングペンギンが泳いでいた。猛スピードで駆け抜けていくシーンに芸能人たちが歓声をあげている。とあるキングペンギンをアップでムービーさんが迫っていく。シューーーーーン!ムービーさんとキングペンギンの一騎打ち。カメラのフレームが少し遅れそうになるが、負けじと追いつき追い越せのデッドヒート!再びシューーーーーン!そして、次の瞬間!!


 ザバァーーーン!!!!!

 テレビ画面からキングペンギンが大ジャンプをキメて、ローテーブルの上にスタッと華麗に着地した。わたしはあまりの驚きと、ペンギンと正面から激突するのかと思い、咄嗟に不思議な体勢で仰け反りソファから尻餅をついた。開いた口が塞がらない。ペンギンとテレビ画面を交互に見つめるばかりだ。しかし、不思議なことにテレビの液晶は割れていなかった。ポタポタと水がローテーブルに落ち、ブルブルとキングペンギンが身体を高速で揺らして水切りをしたので、細かい水滴がわたしにかかった。

「わ!」
「… What ?」

えーーーー!!!
キングペンギン、お前もか!と「カエサルの死」の絵画の台詞しか出てこない。そして、もう1度同じことをくり返すわたしとキングペンギン。

「え!?」
「… What ?」
「あ、英語!?」
「… Who are you ?」
「I'm fine, thank you!」

ち、違う…!落ち着け。今「あなたは誰?」って聞かれているのだ。「How are you ?」じゃない。しかも、ネイティブでは「I'm fine, thank you.」はどうやら使わないらしい。しかし古くから身に染みてしまった中学英語は自動的に出てしまうのだ。
 ネイティブキングペンギンが訝しげにこちらを見ている。
 こんな時にドラえもんが翻訳コンニャクを持って来てくれたらいいのにと、心を落ち着かせながらペンギンがなぜ話せるのかという疑問よりも、なんとか意思の疎通を図りたいという希望の方が優った。急いで翻訳アプリを起動して、21世紀最大の発明品 iPhone vs なぜか英語を話すキングペンギンの図が出来上がった。

"キングペンギンさん。日本へ…よ、ようこそ… "
"今度は日本か。たまにこうして召喚されるんだよね。あ!あー、お前さんのことさっき先生から聞いたんだった。で、また何を悩んでるんだい?"
"え?なんで知ってるんですか?"
"地球は丸いんだよ。知ってるかい?"
"… はい ”
"海ってやつは、その全てに繋がっているのさ。だから、お前さんのこともよく知ってるよ "
"水族館に住んでるんじゃ… "
"海水さ。水はいろんな情報の源なのさ。ラッコ先生に会っただろ?"
"あ、はい … 先生?"
"で、お前さん、今度はどうしたんだ?"
" … 旦那さんとどう妊活や出産など乗り越えていくべきなのかなって、ちょっと心配になっちゃって… "
"なるほどな。俺たちキングペンギンもな、夫婦は一生夫婦。共働きで子育ても乗り越えるんだ。
オスはな、メスが産んだ卵を何日間も足元で温めて守るんだ。その間飲まず食わずさ。メスは海に行って、大量の食料を持ってくる。帰ってきたら、ようやく俺たちオスはバトンタッチして食料探しに行くのさ。そして、またメスの元へ戻る。これを交互に行って子育てをするのさ "
" … 過酷な環境の中、夫婦で力を合わせるんですね!”
"そうさ、出産、子育てどれも夫婦一緒にやるんだ。俺たちは普段からコミュニケーションを大切にしているのさ。お互い羽繕いしたり、プレゼントしたり、添い寝したり。最近じゃ、人間界ではおしどり夫婦じゃなくて、ペンギン夫婦って言うそうじゃないか!"
"確かに数年前からそう言われるようになりましたね!"
"お前さん達なら大丈夫さ。丁寧に根気よく、互いを許し合いながら、コミュニケーションを第一にな "


 わたしはいつの間にか正座をして、ローテーブルの上でドンと仁王立ちのキングペンギンのありがたい話を聞いていた。そして、「じゃ、頑張ればよ」と言い終わると、頭からテレビの液晶に向かって飛び込むように再びジャンプをした。

ザパーン!!

 嘴が触れるか触れないかの瞬間、バケツをひっくり返したような大量の水が顔面にかかった。驚きながら、瞳をパチクリと瞬きを繰り返した。腕で顔にかかった水を拭きながら、テレビを見たら、何事もなかったかのように水族館特集の続きが映し出された。液晶画面は壊れていないし、水浸しにもなっていない。一体、どういうことなの!? というか、貞子的なアレなの??

「もしもし?もしもし?」


 突然、片手に持っていたiPhoneから誰かの大声が聞こえてきた。保留音が消えていたので、きっと貞子… じゃなくて!病院の院長先生の声だろう。

「は、はい!すみません!」
「あぁ〜繋がってよかったです。大変お待たせいたしました。わたくし、不妊治療専門ラッコクリニックの院長の海野螺子と申します」
「… え?」
海野螺子(うみの らこ)と申します」
「……海のラッコ?」


それから院長と何を話したか記憶がない。


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いよいよ本格的に不妊治療を始めることになったので、
 記録として不定期でエッセイ的妊活話をしたいと思います。
 不妊治療ってどうしてもデリケートな話になりがちだけれど、
 悩み考えているnoterさんと、
 繋がるきっかけになれたらいいなと思っています。

ぶっちゃけ妊活日記 vol.3はこちら

↓↓↓

ぶっちゃけ妊活日記 vol.1はこちら

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