マイタクシーのすすめ

 多い時は月の半分、日本のどこかへピューンと飛行機や新幹線で出張に出かけている。あちこちの美味しいものを食べているせいか、体重は学生時代のベスト体重から約10キロ近くオーバーしていると最近知った。なんとなくアレがキツくなったなとか、コレが苦しいなとか薄々気付いていたけど、なんせ体重計が壊れていたので、ここ数年測っていなかったのだが、現実を突きつけられると人間こうも落ち込むものだろうか。旦那さんにライザップに行きたいと駄々をこねる日々である。

 出張中、わたしは大きな荷物と共に旅立つ。カメラバック、キャリーケース、三脚ケース、脚立 … 後ろ姿を見ると、荷物だけが歩いているように見えるかもしれない。早朝よいしょとリムジンバスに乗り込んで、羽田や成田空港へ向かう。目的地に到着予定時間に着くかどうかヒヤヒヤしながら、バスの揺れが心地よくてウトウト睡眠タイム。到着後もまたよいしょと荷物を担いで、カウンターへ向かう。

「旭川空港ですね。お荷物3点でよろしかったでしょうか?」
「はい。あ、コレ三脚なので取り扱い注意でお願いします」

 いつものように手続きを終え、早めに搭乗口近くまで移動する。そして、温かい掛け蕎麦を注文して朝食をとる。

旭川空港に到着。飛行機を出た途端、冷たい空気が頬をピューンと鋭くかすめてくる。荷物をピックアップして、いつもの場所へ行くと…

「やぁやぁ〜また来たね〜長時間移動ご苦労さま〜!」と言って、おじちゃんがわたしを迎えにきてくれた。
「ご無沙汰してます!わぁ、やっぱり雪すごいですね。」
「そうだなぁ〜昨夜はさらに吹雪いてたからなぁ〜今、2m近いかもしれないね。」


はい!ここで、読者の方からの質問を受け付けます。


読者一同「えーと、このおじさんは親戚か何かですか?
いつもの場所にいて、ご無沙汰してますって挨拶…親戚だよね?」

わたし「いえ、あの…違うんです。
このおじちゃんは、タクシーの運転手さんなんです。」


読者一同「え?!」


 このおじちゃん、実は、毎回出張で旭川空港を利用する度に送迎全てをお願いしていて、出張が決まると電話で予約して今回の出張のざっくりしたスケジュールを伝えると、色々と段取ってくれるスーパーマイタクシーなのだ。

 思い起こせば、出会った初日。
 初めて旭川空港に降り立ち、タクシー乗り場へ向かった。よく見かけるセダンタイプでなく、少し大きめのハイブリッド型で乗り心地がよかった。

「お客さん、どちらまで行くの?」
「旭山動物園へお願いします」
「お客さん、どこから来たの?」
「東京です」
「お〜東京!旭川にはよく来るの?」
「いえ、初めてで…すごく来たかったので楽しみにしてました」
「ほぉほぉ、旭川はね〜」

 それから目的地に到着するまで旭川の歴史、観光地、動物園のことなどずっと話をしてくれた。どうやらおじちゃんは観光案内タクシーの仕事もしているので、旅案内なども精通しており、やたらお話上手だった。何より動物園のことも詳しくて車内では大いに盛り上がった。

「はい、到着〜!」
「ありがとうございました。帰りもいいですか?」
「閉園に来ればいいかな?あ、キャリーケースとか荷物預かろうか?」
「え!?」

 わたしは一瞬悩んだ。流石にそれは図々しいかも…あ!ケース盗まれたり…なーんてことはないか。領収書もあるし、いざとなったら会社わかるし。それ以前にこのおじちゃん、絶対いい人!間違いなくいい人。

「い、いいんですか!?助かります!はい、閉園時間に門の前にお願いします」

 わたしの中の「いい人」の基準の1つに、「笑顔がかわいい人」というあまり説得力がない項目が割と上位にあるのだが、このおじちゃんはよく笑うし、笑うとなんだか幸福そうな表情をしていて、とにかくいい人なのだ、多分絶対きっと本当に。身近なところだと、うちの旦那の笑顔は肉で言うと、肉で言わなくてもいいけど、特上A5ランクのキュートさを兼ね備えている。すまん。遠回しに惚気ている。

 寒いだろうからと、タクシーの中でカメラのセッティングの準備をさせてもらい、余分な荷物は全て後ろのトランクに預かってくれた。おじちゃん、神ですか。そして、平和に動物園で過ごして閉園時間に動物園を出た。朝別れたタクシーのおじちゃんが待っていた。知っている人の顔を見て安心した。

「寒かったでしょう〜撮影お疲れさま!」
「寒かった〜でも楽しかったです。ホッキョクグマのダイブ迫力あってすごいですね〜キリンは寒くないのかな〜カバが水中で歩いてるの可愛すぎですよね〜あとは」

 などと、怒涛の動物園の感想をタクシーの中でたくさん話した。帰りに空港に到着すると、美味しいソフトクリームがあるよと空港内の案内をしてくれた。でも、流石に寒くて食べれなかったので、また来る時の楽しみにしよう。


これが、旭川のおじちゃんとの初めての出会いだった。


 それ以来、このおじちゃんに全てを任せることにした。これまで往復で10回くらいお願いしている。毎回行く楽しみが増えるし、色々なお話をタクシーの中でできるし、おじちゃんと話してて単純に嬉しいのだ。


 タクシーを利用する際、目的地まで小さめのラジオをバックミュージックにして、お互い黙って移動するタクシーが圧倒的大多数だと思う。仕事で疲れて、タクシーの中で寝たいのに、運転手に話しかけられたら面倒に思われたりするだろう。その気持ちもとても理解できる。

 地方は特にタクシーの需要が年々減っていると聞いた。リムジンバスや電車なども選択肢が増え、何より昨今の経費削減でビジネスマンの利用が減ったのが手痛いそうだ。だからと言って、みんなでタクシーを利用しようだなんてことはなかなか言えないのだが、マイタクシーを持つと、とってもいいことがある!というか、いいことしかない。
 

 わたし的いいことについて、まとめてみた。
 (全てのマイタクシー制度に共通する訳ではないのであしからず)

【マイタクシーの良いポイント】
① サービス増し増し
  
→ お菓子をくれる
   端数はおまけしてくれる
② インターネットいらず
  
→ご当地の本物の美味しいもの、お店を知っている
   観光案内してくれる
   他のホテル情報との比較ができる
③ 常連のVIP待遇
  
→他のお客さんよりも優先してくれる
     まさかの朝食付き

 知らない土地に来ると、ワクワクとした冒険心が湧き出るが、同時に少し心細い想いもある。そんな時に空港に降り立つと、いつもいるおじちゃんの顔を見てホッと安心する。不思議なことに、いやぁ〜帰ってきたな〜と勝手に郷愁にかられてしまう。片道だいたい約30分、長いようであっという間の乗車時間だが、何度も同じ人のタクシーに乗ると、会話がどんどんプライベートの話になる。逆に、この車内の中の方が本音をポロっと言えることもあったりする。お互いの家族のこととか、大好きな姪っ子のこと、仕事のこと、嫌なお客さんベスト3とか、人生のお話ができたりもする。

 ちなみに、他の地方にもマイタクシーがある。まるで遠い遠い親戚がいるみたいだ。また会いたいと思える優しいおじちゃんたちが日本のあちこちにいると知っているだけで、なんだか嬉しくて、温かな気持ちになる。

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