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誤読の味

先日、梨木香歩『海うそ』を読みおえた冬子は、物語に次々と現れる動植物に魅了された。どのくらい出てきたものか気になり、軽い気持ちで書き出していった。

生物たち
ゴイサギ、雄鶏、【ミンミンゼミ】、【トビウオ】、トビ、カモシカ、【ヤギ】、アサギマダラ、カラスバト、アワビ、ウニ、ニホンアシカ、河童、ヘビ、【カメムシ】、ミカドアゲハ、アオスジアゲハ、モンキチョウ、【アブラゼミ】、【クマゼミ】、カラ類、メジロ、リュウキュウベニイトトンボ、アカショウビン、キジ、キクガシラコウモリ、ヒグラシ、蚊、コノハヅク、ノミ、イエネズミ、ツマベニチョウ、アサギマダラ、アオバト、クイナ、ヤマシギ、海鳥、イセエビ

植物たち
ビロウ、ブナ、アカガシ、サルトリイバラ、葦、ヤブツバキ、ハマヒサカキ、カシノキ、モチノキ、カナグギノキ、ハイノキ、モッコク、イスノキ、スダジイ、ヘゴ、ウバメガシ、イタビカズラ、茄子、胡瓜、苦瓜、南瓜、大豆、玉蜀黍、百日草、鶏頭、アコウ、クロマツ、ソテツ、珊瑚樹、シイ、モミ、ツガ、イネ科、ガマ、ミツガシワ、栴檀(せんだん)、シイタケ、茶、サトイモ、シダ類、芭蕉、タブノキ、葛、イタヤカエデ、ダイダイ、タチバナ、茸、野蒜、蕗の葉、シャリンバイ、【松林】、オニヤブソテツ、ヤマシャクナゲ、【ハマカンゾウ】、苔、ハラン、稗、粟、杉の古木、ツワブキ

それは書き出してみると、なかなかの量であった。【 】は、人文地理学の研究者の秋野が、舞台となる南九州の遅島に50年後に再訪したときにも出てきたものである。あくまでも秋野が認識した、というのを前提にしている。それでもあまりに少なく、冬子は何度も頁を見返した。

喪失の物語であった。許嫁を亡くし、両親を亡くし、先生を亡くした秋野。50年後も変わることなく昔のままに在る「海うそ」をその目で見て、色即是空、空即是色の境地に至る。

こればかりはわからない、と冬子は目を閉じた。頭では理解できても、体験をしていなく体感できない。でもそれは、これからかならずやってくるのだ。もう嫌だというほどやってくる。冬子は昔から在り続ける海うそをその地に立ち、この目で見てみたいと強く思った。

冬子はカモシカが立ったまま凍死してしまうことを知らなかった。足の先から凍りつき、動きたくても動けなくなる。秋野の許嫁は雪山に登って降りてこなかったため、自死したとされたが、降りたくても降りてこれなかった、とは誰も考えなかったのだろうか。ただ遭難したと。理由はわからない、と書かれている。それならば、動きたくても動けなかったカモシカのように、戻りたい気持ちを抱えたまま、ゆっくりと凍死してしまったとは考えられないだろうか。

話中で許嫁のことが書いてあるのは4箇所あり、はじめのところで、カモシカの瞳についてふれたあと、彼女のことを書いている。話中の人々は許嫁が自死したと考えているが、少なくとも冬子は、許嫁とカモシカがゆるやかにつながり、自死ではなく、事故だと私は思います、と秋野に話しかけるように読みおえたのだった。

八百屋に行くと「韓国ズッキーニ」というものが売られていて、聞くと普通のよりやわらかく、加熱するとトロッとするよ、と教えてもらう。冬子は厚めに輪切りにし、フライパンで両面を焼き、塩コショウをして食べた。ほう、これもまた。普通のズッキーニもこうするとやわらかくなり飽きることがない。個体差みたいなものよ。本よみもおおらかに、それぞれに読み、それぞれに味わえばいいね。最後のひとつを口にいれ、また買ってこようと思った。





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