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読書メモ_転換期と向き合うデンマークの教育

スイスIMDの世界競争力ランキング2020で、デンマークが2位となった。
この指標で競争する意味があるのか、という批判はあろうが、個人的にIMDの講座を受けていたことがあるので、あの学校は信頼している(≒親近感がある)
Fischer先生お元気かな。

ではトップの3か国(地域)に共通するものは何か?


The top three’s different recipes for success

Factors behind Singapore’s success are its strong economic performance which stems from robust international trade and investment, employment and labor market measures.
Stable performances in both its education system and technological infrastructure – telecommunications, internet bandwidth speed and high-tech exports – also play key roles.

Denmark,
in 2nd, can credit a strong economy, labor market, and health and education systems. In addition, the country performs very well in international investment and productivity, and topped Europe in business efficiency.

Switzerland has been gradually edging towards a podium position, from 5th to 4th and now 3rd in 2020. Robust international trade fuels its strong economic performance, whilst its scientific infrastructure and health and education systems show steadfast displays. (IMD,2020)


鶏と卵の議論かもしれないが、教育システムと順調な経済がよい循環を生む、ということのように思う。
日本に対する議論は別の場に譲るとして、デンマークの教育に興味を持ち、本書を手に取った。

■感想)
・執筆陣の語り口がとにかく穏やかである。それは、教育を扱う専門家ということもあるだろうし、ご自身が震災を経験されたこともあるかもしれない。が、それ以上に「デンマークの教育がよくて日本はダメ、という見方を私たちは取らないからである(P.14)」という姿勢に表れていると感じた。
そしてそれは、「水平な国」デンマークの本質であるのだろうとも思う。

・国としての教育に現れる態度—-高校をまだ選べない人のための「第10学年」という猶予期間制度を持ち、「教育のゴールは税金を納められる優秀な労働者である」という設定があり、それでもなお「見守りながら待ち、信頼し、判断を子どもに委ねる」というデンマークの姿勢から、私たちは何を学び、何から始めることができるだろうか。

・企業人事である私の視点からは、マイクロマネジメント、つまり細かく指示し安全にみんなでプロセスを一緒にこなしていくのが日本っぽい形。他方明確な旗印のもとティーチングとコーチングを使い分けチームで推進しているベテランマネジャーがデンマーク、という風に見えた。
良し悪しではない。ただ勝ちパターンが明確で育成対象が大人数の場合は、前者の方が効率的であるということは言える。


■引用)
・p.19 義務教育終了後、中等教育にすぐに進学しない道を選択する生徒のために、「第10学年」という制度がある

・P.43 労働政策と職業訓練制度において「フレクシキュリティー」などが注目されているデンマークでは、教育改革においてもそのゴールは優秀な労働者なのであり、そのための職業訓練を有効に受けられるための学力とレディネスであることがわかった。P.245 すべての人をそのコンピテンスを最大限に発揮し税金を払える人に育てるため、大変細やかな制度がいくつもつくられ続けている。

・P.52 デンマークの生徒は、民主主義的プロセスを理解し、参加するという点で優れている。生徒も教師もよいディベート文化を経験していて、学校にはよい社会的雰囲気がある。国際的調査で、デンマークはディベート文化を助長する点で最上位にある。

・P.134 (森の幼稚園)確かに森の中では不安定な場所やものにあふれ、何気ない小さなことでも常に選択や判断が求められるものである。その中で、冷静さや判断力が育まれ、さらには創造力を発揮することが安定感につながっていくのである。(中略、P.140)保育者が子どもに遊びを促したり、遊びを率先する場面はほとんど見られない。このことは、森の幼稚園に限ったことではなく、デンマークの大人が子どもを一人の人間として尊重し、子どもに寄り添っているからこその姿勢である。保育者は、見守ることの「大切さ」と「むずかしさ」を理解した上で、この姿勢を貫いているのである。(中略、P.145)「子どもに話すのではなく、子どもと話す」という保育者の姿勢である。

・P.150 デンマークの就学前教育は、日本のように幼稚園は文科省、保育園は厚労省、認定こども園は内閣府といった区別はなく、子どもの庭(Bornehave)と呼ばれ社会省の管轄である。

・P.226 日本ではマイナーな職業訓練校がこちらでは極めて活発で、若者たちを集めている。(中略)板金や調理、各手工芸、医療福祉、中にはデンマーク王室御用達の陶器メーカー、ロイヤルコペンハーゲンの絵付けまで、あらゆる職業訓練が準備されている。デンマークでは喫茶店のウエイトレスに至るまでおおよそすべての職業が資格化されており、一定のスキルを身につけない限り就職はできない

・P.222 学校と地域社会の関係の差異は重要である。デンマークなど欧州の学校は学校と地域社会が同じレイヤー(層)に位置づいており、ちょうどジグソーパズルのピースのように、両者はお互いの形によって自らの形が規定される地と図の関係になっているような気がする。学校がはみ出ればその分だけ社会は引っ込むことになり、社会が出っ張ればその分学校が小さくなる。参観した授業一つとっても、教材は現実からとられたものが多く、教育は常に現実社会の方を向いているようだ。

………

ではなぜ、デンマークはこのような思想、制度を持つに至ったのか?
ナポレオン戦争や第2次世界大戦での痛み、また資源を持たない国として風力発電や医薬品産業にbetした国としての舵取りなど、様々な理由があるように思うがまだ勉強不足。また、デンマークの学生の中にも、悩みはあるしモラトリアムから抜けられない例もあると聞く。

一方、日本においては、次のような未来予測が共有されている。

本書最後に引用した「学校がはみ出ればその分だけ社会は引っ込む」ように、同じ視界を持った上で、産官学民が螺旋を描くように、それぞれの持ち場で、また時に越境しながら、未来を築いていけるようにしていきたい。



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