見出し画像

鍼灸師の「育成戦略」を考える/鍼灸学生、若手鍼灸師をどう育成すればいいのか?

 経営資源のひとつである「人」を経営戦略に結びつけ成果を出すための鍼灸師の育成戦略が今求められています。
 鍼灸師が成長するためにはどのようなプロセスを踏めばいいのでしょうか?その答えは誰も知らないのかもしれません。今回は「病状説明から治療までの導入」に入る前の休憩がてら鍼灸師の育成戦略について考えてみました。


鍼灸師の育成戦略の現状

 鍼灸師の育成を考えていくにあたって、何が問題であるのかを考えてみました。その結果、現状での鍼灸師の育成戦略は機能不全に陥ってしまっていると考えられます。

鍼灸師育成の”ないづくし”問題

 なぜ機能不全に陥っているのかを考えると、以下の4点が挙げられると思います。①支援がない、②時間がない、③鍼灸師を育成するためのスキルやノウハウがない、④鍼灸師育成実現への有効的なデータがないなど、鍼灸師を育成するための戦略の”ないづくし”が機能不全に陥ってしまった要因だと考えられます。また、鍼灸師になった後の成長の程度は各個人(学会や研修会など)や企業(社内研修やマニュアルなど)に委ねられていて、ばらつきが生じやすいのも要因のひとつであると言えます。

鍼灸師育成実現のボトルネック

 成長の程度にばらつきがあるのは仕方ありませんが、この問題が鍼灸業界全体で生じてしまった結果、国民の鍼灸療法の年間受療率が低下するといった事態を招くこととなってしまいました。そうであるならば、この成長のばらつきを是正するような取り組みを行う必要があります。しかし、どのように鍼灸師を育成すればいいのか分かっていないのが現状で、これまでに学会が主導となって行われてきた施策の効果も不明な状態です。

 それでは今度は鍼灸師育成の実現にあたって抱える3つの”不明”について考えてみましょう。

鍼灸師育成の実現にあたって抱える”不明”

 鍼灸師育成の実現するにあたって、何が問題であるのかを考えてみました。その結果、鍼灸師育成の何から推進したらいいのか分からないという答えに至りました。

抱える3つの”不明”

 何から推進すればいいのかなぜ分からないのかと言うと、それは①若手鍼灸師のニーズの不明、②学びの促進方法が不明、③研修効果の不明など、何から推進すればいいのかが”不明づくし”になっているからです。

鍼灸師育成の実現を目指して

 これらの打開策として、若手鍼灸師のニーズを知るためのアンケートを実施する必要性があります。また、中堅鍼灸師、ベテラン鍼灸師では求められるスキルやノウハウも異なるため、それらのデータを集積し、それを科学的に評価する必要があります。そうすれば各時点における育成体系の適切化や有効的な施策が打ち出せるはずです。また労力をかけて実施した研修の効果を図るために、研修を受けた群と受けなかった群で比較検討(年収など)を行うことで、明らかになる部分もあると思います。
 しかし、これまでにこうした取り組みが行われなかったのにもなにか理由があるはずです。今度はこれまでの問題点について考えてみましょう。

これまでの鍼灸師育成に起こりがちなこと

 これまでの鍼灸の学会の多くはエビデンスやガイドラインへの掲載ばかりを求めすぎていて、研究のための研究が数多く行われていたように思います。研究は開業鍼灸師が患者さんに適応可能なデータを還元することに意味があると思います。したがって、研究者と開業鍼灸師の考え方に乖離が生じてしまい、臨床研究などで得られた知見を軽んじてしまう傾向が高くなってしまいます。このような現象が起こると、ある特定のスキルやノウハウを持った人物が行う研修や勉強会に注目されるようになってしまいます。

鍼灸師育成の問題点

その研修や勉強会は効果的であったのか?

 人は、わからない事態と対峙したときに、すぐに「分かる」ことと、考えたり調べても「分からない」ことがあります。これは『型が身につく鍼灸臨床 -導入編-』でもすでに言いましたが、現代は、まとめ記事やマニュアル本など、「分かる」ことに照準を合わせた情報に溢れていますが、これらを手にして「分かったつもり」でいるのが一番深刻な状況なのかもしれません。
 分からない状況やなかなか上達しないときに、「なにが原因なんだろう?」と原因を探ったり、工夫をしますよね。このようにすぐに答えの出ない問いを考え続ける能力を「ネガティブ・ケイパビリティ」と言います。
 本来の研修や勉強会はこのネガティブ・ケイパビリティを育むためにあるはずですが、成長や評価の基準が「分かる」ことになってしまった弊害がこの能力を育む阻害因子になってしまいました。そうすると「これを習得すれば儲かる」といった「分かる」ことに照準を合わせられた表面的なものに注目しがちになってしまいます。これこそが、鍼灸師を育成するための戦略が機能不全に陥ってしまった要因であり、鍼灸師育成の何から推進したらいいのかわからなくなってしまった原因だと私は考えています。

これからの鍼灸師育成に必要なこと

 これまでに何十万人、何百万人が鍼灸師となり、いろいろなことを試してみては失敗を繰り返して、それでもなお答えが出ていない中で特定の要因だけを吸い上げ、「これだけ習得すれば儲かる」なんて考え自体が情弱ビジネスに他ならないと思います。

 「流されやすい鍼灸師」は鍼灸師としてのアイデンティティが確立していないがために、意思がなく、受け身がちとなってしまいます。そのため知名度やステータスといった表層的な部分に注目していまい、鍼灸師としてのアイデンティティがいつになっても確立しません。

流されやすい鍼灸師

 一方で、「ブレない鍼灸師」は、在り方や価値観、信念、生き方といった本質的な部分を選びます。「こうなりたい」「こうありたい」という強い意志を持ち、鍼灸師としてのアイデンティティが確立された鍼灸師は成長も早く、理想の自分にたどり着くことができます。

ブレない鍼灸師

 これからの鍼灸師育成には、鍼灸師としてのアイデンティティを確立していくことができる育成戦略が求められていると思います。

臨床力向上と学習意欲の獲得

 鍼灸師が成長するプロセスに必要なことは、PDCAサイクルを回しながら改善することで、とにかく始めてみる実行力と企画力が重要です。

PDCAサイクル

私が実践していること

 私が取り組んでいることは鍼灸学生~若手鍼灸師に向けての情報発信で、主に臨床力を向上させることを目標設定として『型が身につく鍼灸臨床』と題して始めました。そして、鍼灸師の臨床力の向上と同時に鍼灸師が自ら学習する意欲を獲得できることを期待しています。こうしたことはすぐに「分かる」ことばかりではなく、繰り返し学ぶことによって定着します。ネガティブ・ケイパビリティを育むことこそが最も重要だと私は考えています。

学習期待

 型が身につく鍼灸臨床では、鍼灸師の臨床力向上に向けて基本的な技能の習得と多角的な視点を涵養することを目的としています。繰り返し何度も練習をすることで定着し、「型」を身につけられるよう努力しましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?