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型が身につく鍼灸臨床 -病状説明から治療までの導入-

「伝わる」「伝わらない」「伝えたつもり」

 「ちゃんと説明したのに、なぜこちらの意図と違う解釈をされて話がこじれるんだろう?」と経験したことはないでしょうか?
 しっかり「伝わる」ように話したのに「伝わらない」ことには何か原因があるはずです。また、伝わってないことがわかれば何が問題であったのか考えることができますが、「伝えたつもり」で話しが一方向で終わってしまったら改善する余地もなくなってしまいます。
 そもそも鍼灸師の養成機関では、患者さんに「伝える」ことの方法を学ぶ機会がなく、各々のセンスや経験によって涵養されているのが現状です。この伝えるという作業は本当に難しく、私自身もまだまだ改善しなくてはいけないことがたくさんあります。まずは一般的な「伝える」ことのポイントをいくつか挙げましたので学んでいきましょう。


「伝える」ことのポイントとは

ポイント① 相手との信頼関係の上で成り立つ

 伝わるように配慮しているにもかかわらず、曲解されるとしたら、それはまさに「そもそも人間関係が築けていない」典型例かもしれません。その理由は、私たちは思っているよりも「感情に影響を受けやすい」からです。
 尊敬している人や好きな人から言われたことなら、不快にならず、むしろ素直に聴けるというケースは多くないですか?一方で、あまり好きではない人や不愛想で苦手な人から指摘されると、不快になり、反発もしたくなりませんか?このように人間は「感情に影響を受けやすい」ため、いくら説明力や論理的な話しをしても不十分と言えます。逆に説明力や論理的な話しをしなくても「伝わる」こともたくさんあります。したがって、「何を言われたか」よりも、「誰に言われたか」ということが伝える中で重要視するべきことなのかもしれません。

ポイント①

ポイント② 相手の立場に立って考える

 人は、とかく自分の知っていることや自分の話したいことを伝えがちです。そうして伝えたつもりなのに実は伝わっていない場合に「伝わらないことを相手の責任にしている」ことが結構多いです。それは言葉はシンプルであっても「人によって解釈が異なる」からです。
 鍼灸医療面接の項でも記載しましたが、「鍼灸師が行う医療面接には副作用がある」と述べました。それは医療面接の介入自体に「聞く」と「話す」という介入が不可欠だからです。伝える行為の本質は「情報を伝達する」ことです。つまり、「話す」という介入が多くなり、「自分が伝えた通りに相手が解釈してくれる」と期待しすぎると、痛い目をみるかもしれません。

ポイント②

ポイント③ 話しの終着点を明確にする

 話しの終着点=相手に伝えたいことです。伝えることには「何を伝えるか」を明確にすることが重要で、伝える目的が明確であれば、伝える内容も定まっていけなくてはいけません。
 不確実性の高い会話になるほど、今後の方向性が見えにくくなってしまうので、それを「ともに作り上げていく姿勢」が重要となってきます。

ポイント③

 いくつかポイントを出しましたが、「伝える」ことは本当に難しいです。芸人さんのように人の注目を集め、起承転結がしっかりしていて、流暢に話すことは誰しもができることではないので、自分なりに誠実に対応することが「伝える」ことの本質なのかもしれません。つまり、話し方が論理的でなくても説明力に欠けていても、伝えたいことを明確にして、自分なりに整理して伝えようとする姿勢が重要なのかもしれません。それでは本題に入っていきましょう。

鍼灸師における病状説明

 鍼灸師として患者さんに説明を行う場合にはさまざまな制約の中で行っていきます。例えば法律的な観点からは、鍼灸師は医療法上、診断権はなく薬剤に関する説明も行えませんが、患者さんの病態を把握し、それに関する説明と治療方針の提示は可能です。まずは患者さんに対して行う説明が法律上、鍼灸師が行ってもよい範疇なのかを気にする必要があります。


医師以外の医行為の禁止​​

  • 医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めており、医師でない者が医業(医行為)を行うことを禁じており、「診断」も医師以外の者が行うことは許されない 。

  • 医師以外の者が「医業」を行った場合には、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこれらの併科となる(31条1項1号、17条)。


鍼灸師が病状説明を行う理由

 法律的な観点に留意し、そのうえで鍼灸師が行ってもよい説明と治療方針の提示を行いますが、この行為自体が治療の一部になると私は考えています。すなわち鍼灸師の知識の程度とそれに基づく説明によって経過が左右されると考えています。

治療方針を説明する上での要点

 治療方針の説明において「事前準備を行う」と「同じ手順で説明する」という基本を繰り返すことが重要で、説明の型はSOUP frameを用います。


治療方針を説明する重要性​​

  • 不確実性の高い鍼灸臨床では今後の治療の方向性が見えにくく、患者さんとともにそれを作り上げていく姿勢が重要である。

  • 治療方針の説明は、「事前準備を行う」と「同じ手順で説明する」という基本を繰り返すことが重要である。


SOUP frameとは?

 SOUP frameとは半構造化された説明方法の手法のひとつで、Share、Offer、Unite、Planの頭文字を取ったものです。

SOUP frame

また、PREP法という手法を知っておくとスムーズに進みます。


  1. Point(伝えたい結論)

  2. Reason(理由)

  3. Example(事例、具体例)

  4. Point(結論を繰り返す)


 実際の治療方針の説明の進行を交えて説明します。

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