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パトリック・ジュースキント著『香水 ある人殺しの物語』

1985年にドイツで発行された小説。日本では2003年に発刊され、2007年に映画も公開されている名作。

18世紀のフランスを舞台に、超人的な嗅覚を持って生まれた孤児ジャン・バチスト・グルヌイユの生涯を描いている。

この物語の主人公は劣悪な環境での生まれ育ちと、持って生まれた偏執的な性格傾向、異常なまでの嗅覚が全て揃った事で殺人犯にまでなってしまったのだろう。

この物語のほとんどは優れた嗅覚

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パウロ・コエーリョ 著『アルケミスト 夢を旅した少年』

パウロ・コエーリョ 著『アルケミスト 夢を旅した少年』

1988年にブラジルで出版。

物語としては、アンダルシアの平原で旅をして暮らす羊飼いの少年サンチャゴは夢で見たエジプトのピラミッドに向けて旅立つ。その旅の中で様々な人達に出会い、心の成長を遂げる姿を描いている。

スピリチュアルにおいての心の持ち方を1人の少年の描写を通して描かれている。

スピリチュアルは神秘的なものではあるけれど、神とか霊等とは別物であって、心の在り方であるスピリチュアルでは

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山田詠美 著 『4U』

1997年に発行された日本の短編小説集。

かつて山田詠美の小説にハマっていた時期があってたくさん読んでい。久しぶりにこの世界観を味わってみたいと思い手を伸ばしてみた。

感覚的に描かれた文章は直感的にスッとイメージが染み込んでくる。容易に登場人物の心理が入ってくる。
とても分かり易くて良い文章と世界観だと思う。

ただ90年代に執筆された小説だけに今とは違う価値観があるのも確か。特に社会的な情景

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ボフミル・フラバル著『わたしは英国王に給仕した』

ボフミル・フラバル著『わたしは英国王に給仕した』

初版は1971年に共産主義国のチェコスロバキア(当時)で発行された小説。
日本では2010年に同タイトルで池澤夏樹「個人編集 世界文学全集Ⅲ-01」で刊行され、2019年に文庫化されている。

舞台は20世紀初頭頃のチェコで百万長者を目指してホテル給仕見習いとなったチェコ人の青年・ジーチェの数奇な人生が描かれている。

この時代を描いた映画や文学には必ずナチスの影響があり、多くの人達の人生が翻弄さ

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ジャン=ポールディディエローラン著『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』

ジャン=ポールディディエローラン著『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』

2017年に発行されたフランスの小説。

パリ郊外の断裁工場で働く青年ギレン。身近な誰かの人生を覗き見ているように日常の中の非日常を描いている。
そして、ささやかなドラマに喜びを感じ、悲しみを分かち合い、共に感情の軌跡を辿ってゆく。

個人的な日常を描いた静かでシュールな映画をみているような小説だと思った。読み進めて行くに従って、薄緑のフィルターがかかった映像すら目に浮かぶようになってしまった。

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マイキー・ウォルシュ著 自伝『ジプシーと呼ばれた少年』

マイキー・ウォルシュ著 自伝『ジプシーと呼ばれた少年』

 イギリスに暮らすロマ族に生まれた男性の少年期を描いた自伝。

 この本を手に取るまで私はロマ族をよく知らなかった。欧州ドラマや映画に時々出てくる移民と同じように思っていた。しかし、蓋を開けてみると予想以上だった。

 ロマ族の考え方や仕来たりなどの具体的な描写を読み、大変申し訳ないのだが、正直、ロマ族に生まれなくて良かったとすら思ってしまった。恐らく、筆者がそれだけロマ族の文化に対しての嫌悪感や

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