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『教団X』を読みました

中村文則さんの長編小説『教団X』を読み終えました。


長いです。600ページくらいある。


中村さんは以前にnoteにも書いた『何もかも憂鬱な夜に』の作家さん。芥川賞作家です。


中村さん二冊目ですがファンになりました(^^)

海外で人気の作家さんだそうです。読めば納得ですね。

後書きにもありましたが、中村さんは全ての多様性を愛する、という信条をお持ちなようです。



『教団X』を読んだ理由としては随所でオススメされていて、前々から読みたかったからです。

間違ってもカルト作りたいとか、そんな理由ではないです(笑)


2015年のアメトークの第二回読書芸人で又吉さんと若林さんが絶賛していたようで、当時は入手困難になるほどだったそうな。

又吉さんが言うには「十年に一度の小説」らしい。


あらすじ
突然自分の前から姿を消した女性を探し、楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。二人のカリスマの中で蠢く、悦楽と革命への誘惑。四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者の最長にして最高傑作。


とても面白かったです。

闇と光の小説、と中村さんはおっしゃっていました。

凄まじい小説でした。純文学、と呼ばれる類のものになるでしょうか?

原子物理、宇宙創生、宗教、経済、政治、国際情勢、テロなど、話の内容のスケールがとても大きかったです(巻末の参考文献の多さに著者の情熱を感じました)。


登場人物は現実にいるような不完全な人ばかり。

中でも光(善)を象徴する奇妙な老人(松尾)と、反対に闇(悪)を象徴する敵対する教団Xの教祖沢渡の比較は注目です。

この物語は単純な善悪の二項対立ではないと思いました。

人間を深く知るために必要な小説、と言ってもいいかもしれません。


メッセージ性が強く、内容はかなり難しいです。

これは中村さんが書く小説の傾向とも言えるのかもしれません。


たぶん内容は本当の大人にしかわからないと思います。

対象層は3, 40代以上くらい?10代20代でこの小説を正しく理解するのは難しいでしょう(私も自信がない)。


徹底した猥雑な性描写がちょっとくどかったです。

ですが世界の闇を描き切るにはそこまでする必要があったのでしょう。


途中に出てくる50代の男の発言や、後半の松尾の演説に中村さんの思想が表れていたように思います。

世界がなぜ平和にならないか、この本を読むとわかります。


五十代の男が気だるく言う。
「歴史の鉄則だ。先に攻撃させる。戦争は常に、相手に先にやらせてから始めるものだ。たとえばアメリカも歴史的に、常に相手に先にやらせ戦争を始めている。日本との開戦の時も、海南島とユエの間、インドシナ沿岸、カマウ岬沖に、先に攻撃させるための『オトリ船』の出航命令を出している。実際にやられたのは真珠湾だが、先にやらせたことに変わりない。当時の大統領ルーズベルトが、真珠湾が攻撃されることまで知っていたかどうかは諸説あるが、彼が日本に先に攻撃させようとしていたことはもうアメリカの資料を見ればはっきりしている。兵士達が気の毒でならないな。イラク戦争ではその『伝統』を破ったが、あくまでも悪は相手であると主張し戦争をした。日本もそうだ。中国との戦争では、自分達で自分達の満洲の線路を爆破して中国の仕業と言って侵略を始めた。幼稚な作戦だが国民は歴史的に常にそういったことに騙され続けてくれる」

同じく五十代の男の発言。

「(前略)我々は格差を広げていくが、それが我々の政策であることにも彼らは目を向けないでいてくれる。大企業のために、これから我々は賃金の安い移民達を受け入れる。移民のために仕事につけない国民が出てくる。そうしたら彼らに移民を憎ませればいい。国が右傾化し、武器産業などが儲かる。歴史的にあまりに典型的な、保守の国の作り方だよ。……確かに我々の情報には誤りがあった。だがこれを成功させれば国からも何も問題にされない。何かの処分が下ったとしても、口頭注意かそこらで終わる。役人を『処分』とニュースが出る時、まるでクビになった印象を世間は受けるが口頭注意も『処分』だ。『懲戒処分』でも減給すらない場合もある。全く上手くできた言葉だよ。我々の役職は代わるだろうが給料も待遇も全て同じ。ただ我々のような泥濘に似た人間達がうごめきながら役職だけが代わっていくだけだ。我々を否定する政治家が出現したらスキャンダルを手に入れ失墜させていく。……そして我々は結果的に国に借金をさせ暴利を貪りこの国を少しずつ滅ぼしていく。上手くいかなかったら我々は辞めればいいだけだから。政治家も金はあるからいつでも辞めればいいだけだから。まだ働きたければ我々も政治家もどこかの企業に天下りしていけばいい。海外の企業に高飛びしてもいい。国などいうものはもうないんだよ」

まだまだ引用したい部分もあるのですがこの辺で。


多国籍企業や、警察と公安のお話は興味深かったです。

このタイミングで読めたことに感謝。


個人的にはオススメですが、この小説は評価が分かれると思います。いわゆる人を選ぶというやつです。

分かれる理由もわかります。内容が左寄りで、さらに宗教に言及しているからです。

タブーを土足で踏み荒らすような、そんな小説でした。


作家十二年目でこんな作品を書けるなんて、とても濃い人生を歩まれていると思いました。すげえ…。

いろんな方のレビューにもありますが中村文則さんは間違いなく天才です。

次は直木賞受賞作品の真藤順丈さんの『宝島』を読みます(^^)


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