フォローしませんか?
シェア
乙 まみこ
2022年11月27日 23:33
マリーは暇だった。ある日とつぜんクビをきられて無職になって毎日することがなかった。雲の下に広がるすべての景色が自分の手には届かない遠い世界に見えた。自分のことをどこの誰だかも知らず通り過ぎていく人と軽く会話をする。そんな現実逃避のような世界だけが今は楽しみだった。Teitter。そこには嘘だか本当だかわからないような話を人々が書き込んで、信じる人、信じない人が別々の温度でそれを受け止めて
2022年11月20日 23:25
「ごめん。その日は仕事なんだ」ナナが毎年行きたいと言っている『森の国フェスティバル』には今年もまたいけそうになかった。「ねぇ、これ見てみたい。これも食べてみたい」音楽、おいしいもの、楽しいこと、かわいいもの、ワークショップ。手に持ったチラシを隅々まで眺めながらナナは興奮気味に言った。チラシの上からあふれ出しそうにワクワク感が詰まっていた。「そっかまた仕事なんだ…毎年のことなんだから調整
2022年11月18日 22:46
子供の頃の私はきっと魔法にかかっていた。大人になって外で数年働いたら結婚をして家に入り、家族の世話を焼く係になる。私の周囲はその流れを誰も疑わなかった。今にして思えばあの時、本当に結婚をしたかったのかはあやしい。そんな年頃だと言われた頃にそばにいたその人と、そう疑問にも思わず結婚をした。料理教室に通ってみたり、レシピ本を買い込んだりして、夫の帰宅時間に合わせて食事の準備をした。「おい
2022年11月15日 20:59
「岐阜県瑞浪市明世町に隕石のようなものが落下しました。直撃を受けた民家が全焼し、6人が死亡しました。亡くなったのは民家に住んでいた遠山久遠さん 70歳妻 琴江さん 70歳成田ヒカルさん 44歳妻 あずささん 43歳長女 まりんさん 15歳長男 レオンさん 12歳とみられています。「どういうことだ?俺たちはここにいるじゃないか」「ねぇ、お父さん、ここはどこ?」「…」「私たち、
2022年11月9日 22:43
「俺たちの未来ってどんなだろうな。ある日どこかで目覚めたらそこに新しい世界がバァーっと広がってたりするのかな…」「ヒトによるだろ。そんなの」「そりゃそうだろうけどさ。ってことは今はまだ誰にも平等にチャンスはあるって事だぜ」「平等か…だといいな」「だってざっくりいったら同じ星(ばしょ)で生まれてるし、まぁだいたい同じ成分でできてるんだぜ。俺たちみんな。だったらチャンスは平等なはずだろ
2022年11月8日 22:18
スカイと出会ったのは7歳の時だった。どういう訳だか涙の出し方を忘れてしまった僕は、別の方法でかなしみを消そうとしていた。そんな時は押し入れの中に入って、おなかの真ん中であばれだしそうな塊を両手でギュっと押さえて息を止めた。そして静かに吐き出し、ゆっくりと新しい空気をおなかに送って塊をほぐした。やがて新しい空気と混ざり合って、それは僕の中から出ていった。いつのまにか近くにいてその様子を見てい
2022年11月4日 22:43
山の上に最後の一軒となってしまった小さな家におばあちゃんは住んでいた。昔は学校もあり、八百屋さんがあり、金物屋さんや床屋さんもあった小さな町だった。どんどんどんどん削られて、山のカケラはあちこちへと離れてしまった。そんな山のてっぺんでおばあちゃんはひとりで暮らしていた。木々が太陽を求めて斜め上45度に生えているほどの急な坂道を登ってやっとたどりつくおばあちゃんの家。ガラゴロと小石を転が
2022年11月1日 21:33
「どこか似てるよね、僕たち」「だから、出会ったのかもね」知らない場所で、知らずに育って、たまたま出会って、今はこうして一緒にいる。僕が運命と呼んだら、彼女はそれを嫌がった。「友達がね、今の彼氏とはきっと出会う運命だったんだ!って言っててさ。この3年で5回め」「そっか。その子はさ、神様に気に入られてるんだよ、きっと」「え?…なんか案外人間っぽいんだね、神様って」「そうかもね」彼