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天界に咲く花の託け

「悲しい思い出」「あきらめ」「独立」「情熱」
これは彼岸花の花言葉である。
墓地の近くに群れて咲く赤い姿が印象的で、ひんやりした秋の訪れを感じさせる。
その凛とした姿は心の奥をざわつかせる妙な妖艶さがあり、怖いイメージがつきものだ。
しかし、よく見るとすらりとした一本の茎に真っ赤な細い花びらがきらきらと揺れて光る素敵な花でもある。
コンクリートとアスファルトに固められた都会じゃ見ることができないレアものだ。
田舎に帰ればいくらでも田んぼの畦道に咲き乱れている風情ある花の一つである。


今日は出先で久しくお目にかかることがなかった彼岸花を見つけた。
3〜4本の赤い群れは街路樹のわきに申し訳なそうに咲いていた。
すぐ隣では排気ガスを撒き散らかしている環境下で、窮屈そうに咲いている彼岸花はとても悲しげに見えた。
都会の彼岸花ってこんなにも、もの悲しげに映るなんて思いもよらなかった。
私たちの花を愛でる余裕もない忙しなさが、都会の片隅でひっそりと息をしている植物に得体の知れないストレスを与えているようで罪悪感が込み上げてきた。
気づかないうちに大切なものを失い、そして、また、失うことに慣れてしまう私たち。
生と死の狭間ですがりつきたいのは、マスクでもなく、アルコール消毒でもなく、本当のところはコンクリートにも負けないあの自然な生命力なのかもしれない。
人類において何度目かの疫病が流行っている中で、生死を考えずに生活できた現代と、生死がもっと近しく人のそばにあった時代との差が、またひとつ赤く染まって咲いていた。



そういえば白い彼岸花も存在するらしい。
私は目にしたことがないがとても綺麗だそう。
白い彼岸花の花言葉は「また会う日を楽しみに」「想うはあなた」。
悲しみに暮れる赤い花と、誰かを愛する白い花。
別れを偲ぶその花にその先の希望を少しでも託したい。

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