銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十一話(5) 彷徨う落とし物
・第一話のスタート版
・第二十一話(1)(2)(3)(4)
「契約ボードも入ってる」
カノオ君が歓喜の声をあげた。
「どういうこと?」
「待ってる間に、かばんを取ってきてやったんだよ」
「どこから?」
「駅前公園のベンチ」
犯人がバッグを置いた、と言った場所だ。
「レイター、お前が犯人だったのか!」
カノオ君が怒った。
「バカか、あんたは」
「レイター、ちゃんと説明してちょうだい」
わたしは腰に手を当てて、レイターをにらんだ。
「あんたらも見てただろが、モニターで携帯ナビの動きを」
「あの、赤い点?」
「そうさ。駅前公園でいったん止まっただろ。金目のもんだけ抜き取ってるなって、想像つくじゃん。携帯ナビは高く売れるが、会社の契約ボードなんて足がつくだけで、売れやしねぇんだから」
「わかってたなら、警察に伝えておけばよかったじゃないのよ」
いくら警察が嫌いだと言っても、困った人だ。
「警察に届けてたら大変だぜ。証拠品の手続きが終わって戻ってくるまでに一ヶ月はかかる。契約やり直しだ」
そうか。
市販の携帯ナビも返ってこなかったのだ。
契約ボードを警察に渡したくはない。
レイターの行動は正しいけれど腹が立つ。
文句を言わずにいられない。
「どうして先に教えてくれないの。あなたって、どうしてそんなに意地悪なのよ」
「ティリーさんは怒った顔もかわいいねぇ」
「・・・・・・」
やっぱり厄病神だ。最低だ。
「あれ、アディブ先輩の契約ボードがない?」
カノオ君の声にわたしは慌てた。
「え?」
「大丈夫だよ。俺がアディブさんに届けるから。あんたらがまた落としたら大変だからな」
レイターはポケットからアディブ先輩の契約ボードを取り出し、にやりと笑った。
そんな厄病神の顔を見たら、イライラした。
*
本社に着いた時にはもう深夜だった。
残業しないですむはずだったのに。
厄病神のせいだ。
営業部のフロアに、アディブ先輩が残って待っていた。
主任である先輩は、透明なパーテイションで仕切られたブースの中で仕事をしている。
レイターがアディブ先輩のブースへと、契約ボードを届けに行った。
自分の席で出張の整理をしながら、つい、アディブ先輩のブースが気になる。
**
「ありがとう。レイター」
アディブはコーヒーを淹れながら礼を言った。
ブース内は外の音声がシャットされ静かだ。逆に中で話す会話は外に漏れない。
「ったく、あんた、これが敵の反連邦に拾われたら、どうするつもりだったんだよ」
レイターが契約ボードを手渡した。
「まさかカノオ君が、電車に置き忘れるとは、想像もしてなかったもの。私が持って帰るより安全だと思ったのよ。
「まあ、その判断は正しいけどな」
諜報員の接触が、敵に気付かれていた時のための用心。
アディブは肩をすくめた。
「泥棒さんも、契約ボードの中に連邦軍の三カ年機密計画が入ってるとは、思いもしなかったんでしょうけど」
「カノオのことなんて放っておきたかったが、おせっかいなティリーさんに感謝だな」
レイターは出されたコーヒーを飲みながら、ティリーの方へ目をやった。 (6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」