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銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十一話(4) 彷徨う落とし物

第一話のスタート版 
第二十一話(1)(2)(3

 『証拠品』とプレートのついたかごの中に、財布と通信機と携帯ナビが入っていた。会社の契約ボードはない。
「これがあなたのものですか?」
「はい、そうです」

 通信機はカノオ君の個人認証で動き、本人のものと確認された。

 警察の担当者はうれしそうだった。
「じゃあ、財布の中身を確認して、こちらの被害届けに記入して下さい」

 カノオ君は落ち着かない顔で聞いた。
「それで、カバンは?」
「カバン?」
 警察官は不思議そうな顔をした。

「窃盗犯が持っていたのは、これだけですよ」
「ええっ?」

 カノオ君があわてている。嫌な予感がした。
 契約ボードはどこへいってしまったの?

「カバンがあるはずなんです。その中に会社の契約ボードが入ってるんですよ。それがないと帰れない」
 カノオ君は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

横顔青ざめ

「窃盗犯の聴取の状況を聞いてきましょうか?」
「お、お願いします」
 担当者は部屋を出ていった。

 少しすると明るい顔で戻ってきた。
「窃盗犯が言うには、途中でカバンは置いてきたと言っています」
「それはどこに?」
「駅前公園のベンチらしいです。これから署員を行かせますので、もうしばらくお待ちください」

 さっきナビの地図で見た、駅前の大きな公園だ。

 二十分ほど待たされた。
 担当の警察官が浮かない表情でわたしたちの前に現れた。
「駄目でした。もう、カバンは無くなっていて」
 カノオ君はがっくりと肩を落とした。

「誰かが、警察に届けてくれるかも知れないわ」

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 わたしは自分でも楽観的だと思いながら、カノオ君に声をかけた。

 警察官もうなづいた。
「拾得物として届けられればすぐに連絡をいれますから。しばらくこちらに滞在されたらいかがですか。証拠品は今日はお返しできませんし」 

 この窃盗犯が置き引きの常習犯で、財布やナビは証拠としてしばらく預かりたいという。
 結局、警察は現金しか返してくれなかった。

 わたしたちは、ため息をつきながら警察署の外へ出た。
「遅っせぇなあ」
 レイターがエアカーの前でふくれて立っていた。

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「しょうがないでしょ」
「じゃ、帰るか」
「それが駄目なの」
「あん?」
「契約ボードが見つからなかったの」
「契約ボードなら後ろにあるぞ」
「えっ?」

 後ろの座席を見ると、B4サイズの黒いバッグが置いてあった。
「俺のカバンだ」
 カノオ君が大きな声を出しながら、あわてて後部座席に駆け込んだ。    (5)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」