銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十一話(3) 彷徨う落とし物
・第一話のスタート版
・第二十一話(1)(2)
どうやら、バッグを見つけるのに難航しているみたいだ。
と、その時レイターが
「あ~あ、かばんが持ち出されてるぜ」
と言った。
ナビの地図を見ると、さっきまで線路の上にあった赤い点が、キリラン駅の外に移動していた。
広い公園のようだ。
「ど、どうすればいいの?」
「追いかければいいんじゃねぇの。今から特急に乗って」
レイターはニヤリと笑った。
この人、他人事だと思ってる。
「そうだ、フェニックス号で行けばいいんじゃない?」
わたしは提案してみた。
「そのお金は誰が出してくれるのかな。カノオ君が払ってくれるのかな?」
「また、お金?」
「ティリー、船を動かすのは無理だよ」
カノオ君がわたしを止めた。
「さすが、宇宙船メーカーの営業さんはよくわかってらっしゃる」
「どういうこと?」
わたしの疑問にカノオ君が答えた。
「あれだけの船を動かしたら、一回で燃料代そのほか一体いくらになるか。君だってわかるだろ」
そう言われて初めて気がついた。フェニックス号を飛ばすのにお金がかかることに。
しかも、かなりの大金が。
カノオ君が力なくわたしに声をかけた。
「もう一度、通信機を貸してくれないか。アディブ先輩に連絡をいれなくちゃ」
「そうね、早く報告した方がいいわ」
「先輩の契約ボードもカバンに入ってるんだ」
「何ぃ!」
大声を上げたのはレイターだった。
「あんた、どうしてそれを早く言わねぇんだよ」
「どうしてって・・・」
「アディブさんのためなら、船出してやる」
と言うが早いか、レイターはエアカーを一気に反転させ、宇宙空港へと向かった。
「お金はどうするのよ?」
「あん? 人助けだろ」
レイターはアディブ先輩を助けるためなら、お金がかかることも厭わないということだ。
やっぱり、アディブ先輩がレイターの『愛しの君』なのだろうか・・・。
*
空港に停めてあったフェニックス号に着くと、レイターはどこかへ通信をいれた。
「ええ、置き引きです。ナビの情報を逆探知でいれますから。摘発よろしくお願いします」
「誰と話してたの?」
「泥棒を捕まえるのがお仕事、って奴らがいるだろ。そいつらを働かせてやらねぇと」
「警察に通報したってわけ」
「ああ」
最初からそうしてくれればいいのに。
カノオ君のためには何もする気はなかったのに、アディブ先輩が関わると聞いたとたんに、この人はてきぱきと動きだした。
何だか不愉快な気持ちが沸きあがる。
それからは、あっと言う間だった。
十分後、フェニックス号は第二都市のキリラン空港に到着していた。
*
すぐにキリラン警察から連絡が入った。
レイターの通報のおかげで、窃盗犯が逮捕されたと。
わたしたちはレイターが操縦するエアカーで、警察署に直行した。
「警察は嫌れぇなんだ」
というレイターをエアカーに残して、カノオ君と二人で警察署の中へ入る。
受付で名乗ると、すぐに奥へと通された。
制服を着た警察官が、わたしたちに頭を下げた。
「あなた方のおかげで、窃盗犯が早期検挙できました。ありがとうございます」
「とんでもありません」
お礼を言うのはこちらの方だ。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」