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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(15) 決別の儀式 レースの前に

第一話のスタート版
第三十九話 まとめ読み版①   (10)(11)(12)(13)(14

 そんな、ある日のことだった。

 特許データーベースを検索していた僕は驚いた。

アラン・ガラン@2驚く

 僕のアイデアが次々と登録されていた。
 風の設計士団を辞める前に出した八つのアイデア。そのうちの七つがルーギアの名前で登録されていた。

 僕は声を立てて笑った。

 僕のアイデアは、技術として実現可能なものだったんだ。
 ルーギアはわかっていたのだろう。おそらく僕が辞める前に計算ができていたに違いない。

 狂ったように笑い続ける僕にスチュワートさんが声をかけた。
「おい、何がそんなにおかしいんだ?」と。

横顔シャツ前目やや口

「これ、見てください。みんな僕のアイデアなんです。僕の子どもたちが立派に育っていた・・・」
 笑いながら僕は泣いた。

 悔しかった。

 僕にうまくやるという力があれば、風の設計士団を辞めずに済んだかもしれない。でも、もう時間は巻き戻らない。

 そんな出来事があったすぐ後だった。スチュワートさんがオットーを連れてきたのは。
「アラン・ガラン、こいつは、若いが大学院の数学科出だ。お前の助手として雇ったから面倒みてやってくれ」
「オットーと言います。僕、S1ファンなんです。よろしくお願いします」

オットー前目

 緑の髪に赤い瞳のアンタレス人。童顔、というか十六歳だという。
「ことし成人したので、仕事を探していました」

 聞けばスチュワートさんはS1のコミュニティサイトに「計算が得意な人募集」という求人広告を出したのだという。

「いやあ、面白い就職試験でした」
「オットーだけだったよ、満点だったのは」
 そう言ってスチュワートさんはオットーの回答を僕に見せた。

「こ、これは」
 設問は僕の特許のアイデアだった。実現可能にするための式と解を求めよ、という問いが七つ。
 オットーの解答欄には、ルーギアが導き特許を申請した解と同じものが記されていた。

 僕たちはいいパートナーとなった。僕のアイデアをオットーが計算し実現する。
 予選落ちが続いていた僕たちの船が少しずつ順位を上げだした。

 僕とオットーはよく喧嘩をした。オットーはオーナーにでもはっきりと物を言う性格だった。
「スチュワートさん、チーフのアイデアは無理ですよ。計算できません」
 僕の左足が震える。
「無理じゃない。まだ方法は出尽くしていない」
 そんな議論の中から生まれたS1の規定ギリギリのアイデアは、しばしば業界を揺さぶった。

 いつしか、チーム・スチュワートは決勝進出の常連となり、六位入賞、というところまでやってきた。次は表彰台だ。

 レイターがずば抜けて操縦がうまいことは六年前から知っていた。初めて銀河一の操縦士の飛ばしを見た時には身体が震えた。うちの船が生まれ変わっていた。

 第一パイロットのコルバと一緒に戦闘機を飛ばしていたと言うが、格が違う。天才だ。

18歳レイターとコルバ

 出会った当時、クロノス社に勤め整備士の免許を持っているレイターが、スチュワートさんの船を個人的に整備しているというのも聞いていた。
 だが、今回議論をする中でハイスクール中退だというレイターが船の設計論に詳しすぎることに違和感を感じた。

 風の設計士団の昔の仲間とは、情報交換を兼ねて今も時々連絡を取っていた。
 後味の悪いやめ方だったが、中には僕に謝ってくれたメンバーも何人かいたのだ。
「すまん、ルーギアに逆らえる雰囲気じゃなかったんだ」と。

 僕は雑談の中で聞いてみた。
「レイター・フェニックスって知っているかい。食事を作るバイトをしていたそうだけど」
「知ってるも何も、老師はレイターに直弟子を名乗っていいって言ったんだぜ」

15紅白戦笑顔作業着逆

「な、何だって?」

 僕は衝撃を受けた。
 直弟子は老師の後を継げるとされていた。だが、僕の知る限り誰一人として指名されなかった。リーダーである僕もルーギアも。
「ただし、レイターが設計士の免許を取ったら、という条件付きだった」

 レイターは今も設計士の免許はもっていない。僕はわかった。わざと取らないんだ、彼は。
 設計士ではなく、銀河一の操縦士であるために。     (16)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」